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ヒトの大脳のシワ形成に貢献する「外側放射状グリア」誕生の仕組みを明らかに-名大ら

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2019年06月28日 PM12:30

大脳を形作るための重要なステップ解明へ一歩前進

名古屋大学は6月26日、発生期の大脳の中で、ニューロンに分化する細胞と分化しないままの神経前駆細胞の移動をもたらす共通の仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学院医学系研究科細胞生物学分野の川上巧特任助教と川口綾乃准教授ら、理化学研究所生命機能科学研究センターの松崎文雄チームリーダー(京都大学大学院生命科学研究科兼任)らとの共同研究によるもの。研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」電子版に6月25日付で掲載された。


画像はリリースより

神経前駆細胞は神経幹細胞とも呼ばれる細胞で、哺乳類の大脳ができる過程で分裂を繰り返しながら多くの細胞を生み出していく。神経前駆細胞の多くは、当初は脳室面で分裂し、生まれた細胞のうちニューロンに分化する細胞は、すみやかに脳室面から離脱して外側へ移動する。この離脱は3次元的な脳を形作るための重要なステップだが、その実行役となる分子の詳細は明らかとなっていなかった。一方、大脳の発生が進むにつれ、脳室面から離れた外側の領域には別の種類の神経前駆細胞である外側放射状グリアが出現する。外側放射状グリアは「大脳にシワのない」マウスに比べて「大脳にシワを持つ」生物種で特に多く、大量のニューロンを生み出すことで大脳のシワ形成に貢献することが知られている。しかし、その誕生をもたらす仕組みは未解明だった。

生まれたてのニューロン分化細胞の移動開始をLzts1が制御

研究グループは今回、マウス単一細胞レベルでの遺伝子発現情報をもとに、神経前駆細胞の分裂によって誕生するニューロンに分化する細胞が、その誕生後の早いタイミングで発現を上昇させる遺伝子の一つとして「Lzts1」を発見。Lzts1は微小管の形成を阻害する作用があると報告されている。Lzts1の発現場所を調べる免疫染色の結果から、Lzts1はこれから脳室面から離脱しようとする幼若な分化細胞の、特に脳室面に面した突起の足先に局在していることが判明。電子顕微鏡を用いてより詳細に発現場所を調べたところ、ベルト状の細胞接着構造の細胞の内側にその局在が観察されたことから、Lzts1は分化細胞の細胞接着帯からの離脱に関係していると考えられた。

そこで研究グループは、Lzts1を発生期のマウス大脳へ強制的に発現させた。その結果、Lzts1は細胞の分化状態そのものには直接的な影響を与えない一方、Lzts1を発現させたほぼ全ての細胞が脳室面から離脱すること、このとき多くの細胞が MSTと呼ばれる特徴的な分裂直前の素早い細胞体の動きを示すことを観察した。分化細胞が離脱する過程では、細胞突起の足先を束ねているリング状の細胞接着構造物(AJ ring)がアクトミオシン系の活性化により収縮することが知られている。Lzts1強制発現はAJ ringの収縮を強く促すとともに、その部位にある細胞を接着する分子N-カドヘリンの発現も低下させていた。また、逆に、Lzts1の発現を阻害する実験を行うと、分化細胞の脳室面からの速やかな離脱と移動開始が損なわれることもわかった。これらの結果から、Lzts1はこれから脳室面を離脱しようとする幼若な分化細胞の突起の足先に発現し、速やかな離脱を促す実行役の分子として機能していることがわかった。

次に研究グループは、神経前駆細胞における Lzts1 の機能に注目。脳室面で分裂する 神経前駆細胞の一部も Lzts1 を弱く発現しているため、Lzts1を低レベルで神経前駆細胞に発現させる実験を行った。その結果、多くの神経前駆細胞が脳室面での分裂時に斜め分裂をするようになった。逆に、Lzts1発現を阻害した神経前駆細胞の分裂の様子を顕微鏡でライブ観察したところ、斜め分裂の頻度は明らかに減少していた。このことから、通常の発生過程でもLzts1の弱い発現が神経前駆細胞の斜め分裂を引き起こしていることがわかった。

Lzts1は「大脳のシワ」形成の最初のステップを制御

これまでの研究により、MSTや斜め分裂は外側放射状グリアの誕生を特徴づける細胞のふるまいとされている。そこで、発生期のマウス脳でLzts1発現を阻害して外側放射状グリア様細胞の誕生を調べたところ、予想通りその割合は減少していた。外側放射状グリアは発生期のマウス脳にはそれほど多くない一方で、大脳にシワを持つ生物種であるフェレット脳には豊富に存在することが知られている。このことから、さらに発生期のフェレット脳内でLzts1発現を阻害する実験を行ったところ、確かに誕生する外側放射状グリアの数が減少した。これらの一連の実験から、Lzts1はニューロンに分化する細胞の脳室面からの離脱のみならず、神経前駆細胞の斜め分裂を介した新たな外側放射状グリアの誕生ももたらしていることが明らかとなった。

脳発生の過程を時間軸に沿って考えると、これら一見異なる2つの現象が共通の分子によって制御されていることは、ニューロンが生み出される時期にニューロンを生み出す能力を持った外側放射状グリアが誕生することを担保する役割を担っていると考えられる。また、Lzts1は霊長類であるマーモセットの脳組織でもマウスと似た発現パターンを示すこと、ヒトの外側放射状グリアでも発現していることなどから、今回の研究で明らかとなったLzts1の機能はマウスからヒトまで保存されていることが予想されるという。

今回の研究は、哺乳類の脳がどのようにしてできるのかを知る基礎研究にあたるもの。「今後、Lzts1発現のレベルやタイミングをコントロールするシステムを明らかにすることが、生物種による大脳皮質の大きさや形の違いが生じる仕組みの理解へとつながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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