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皮膚の若さの維持と老化のメカニズムを明らかに−東京医歯大

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2019年04月08日 AM11:30

幹細胞競合が皮膚の老化に関わる仕組みは?

東京医科歯科大学は4月4日、皮膚の老化の仕組みが、幹細胞競合による恒常性維持機構の疲弊によることをつきとめたと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所幹細胞医学分野の西村栄美教授、松村寛行助教、劉楠氏らの研究グループが、同大学院皮膚科学分野の並木剛准教授らと共同で行ったもの。研究成果は日本時間の同日、国際科学誌「Nature」にオンライン版で発表された。

組織・臓器の老化は、日々発生する内因性ならびに外因性の損傷やストレスが誘因となることが知られている。しかし、皮膚では「幹細胞システム」が働いているため、例えば紫外線を多く浴びたからといって、ただちに皮膚に老化細胞が蓄積して、高齢者のようになることはなく、何十年という長期にわたり、若さと機能を維持し続ける。幹細胞システムでは、皮膚の表皮をはじめ上皮組織で活発な新陳代謝が行われ、多くの幹細胞クローンが消滅する一方で、一部の残存クローンが増大する現象が、共通して観察される。この幹細胞の消滅と残存は一見ランダムに見えることから「中立的幹細胞競合」と呼ばれているが、それが生涯にわたって本当に中立的に起こる現象なのか、選択的に適応度の高い細胞を選択する細胞競合を反映しているのかについては、明らかにされていなかった。

今回の研究では、実際に生体内の幹細胞の動態と運命を解析することにより、表皮幹細胞においてストレス応答性の幹細胞競合が起こっていること、特に幹細胞と基底膜を繋ぐヘミデスモソーム構成成分であるXV2型コラーゲン()の発現がゲノムストレス/酸化ストレス誘導性のタンパク質分解によって生理学的に変動し、その結果、個々の幹細胞におけるCOL17A1の発現量に有意な差異を生じていること、その差異が幹細胞分裂の様式に差を生じることで、幹細胞間における細胞競合を引き起こすことが明らかとなった。

COL17A1を介した細胞競合が減弱すると皮膚が老化

具体的には、マウス成体内でのin vivo多色幹細胞クローン分析とin vitroの3次元細胞培養モデルなどを駆使することにより、COL17A1高発現細胞が水平方向に対称性分裂して基底膜上で増幅する(勝者幹細胞クローンとなる)のに対して、加齢によりCOL17A1を失った細胞(低発現細胞)は非対称分裂(縦分裂)を連続して行いながら、ヘミデスモソーム構成分子やヘミデスモソーム構造を失って基底層との係留が減弱していく過程が観察された。その結果、限られた空間内で両者が互いに競合し合うこととなり、後者は次第に基底層(ニッチ)から排除され、分化を経て皮膚表面から排除されることが明らかになった。これらの敗者クローンは、酸化ストレスやゲノムストレスに続くDNA損傷応答を経てCOL17A1の発現減少、ヘミデスモソームの消失を引き起こし、基底膜からの微小剥離により皮膚から排除されることも明らかになった。したがって、COL17A1高発現細胞が表皮幹細胞として長期にわたって維持されており、COL17A1レベルのより低い低品質細胞を皮膚から排除し続けるなかで、自身も次第にCOL17A1の発現を失ってしまうため、細胞競合が減弱して表皮の老化が顕著となることが判明した。

また、表皮の角化細胞以外に表皮内でメラニン色素を産生している色素細胞や、表皮の基底膜下に分布する繊維芽細胞などに着目して解析したところ、表皮幹細胞の細胞競合が反復されるなかで、表皮基底層から排除されていく敗者クローン細胞集団に囲まれていた色素細胞も周囲の敗者細胞と一緒に排除されること、ならびに基底膜下の真皮内の線維芽細胞も表皮幹細胞におけるヘミデスモソームの構築変化と並行して消失していくことが観察された。このような真皮浅層の繊維芽細胞の消失は真皮の細胞外マトリックスの構築にも変化を及ぼして深部に波及しうるため、臓器としての老化へと繋がっていくものと考えられた。さらに、表皮幹細胞においてCOL17A1を恒常的に発現させた高週齢マウスを解析すると、皮膚の老化の抑制効果ならびに再生促進効果が得られ、さらにCOL17A1の発現を誘導する低分子化合物によって皮膚の再生促進効果が得られているという。研究成果は特許出願中で、今後皮膚老化の新規治療的戦略や予防へと繋がることが期待される。

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