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簡便・確実・短時間で骨転移モデルマウスを構築する手法を開発-東工大

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2018年08月03日 PM03:15

効果的な治療法・薬剤開発のために必須な実験動物モデル

東京工業大学は7月31日、創薬研究などで有用な骨転移を特異的に確実に形成するマウスの新たな構築法を開発したと発表した。この研究は、同大生命理工学院生命理工学系の口丸高弘助教(現自治医科大学・講師)と近藤科江教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

骨転移は、がんが最初に発生した場所(原発巣)から血中に流出したがん細胞が骨髄組織に到達し、増殖することで発症する。その過程で重要な役割を果たす分子機構が明らかになれば、効果的な治療・予防のための方法・薬剤の開発が進む。そのために、骨転移の実験動物モデルを用いた解析が求められていた。

がん細胞を尾動脈から移植、長期観察が可能に

今回、研究グループはマウスの尾動脈に注目。尾動脈は、血流に対して逆行性の移植になるため細胞の移植経路に適さないと考えられていた。しかし、麻酔下のマウスは血圧が下がるため、尾静脈注射よりもやや勢いよく尾動脈から細胞を注入することで、下肢に血液を送る腸骨動脈の分岐点まで血流に逆行して細胞を送り込むことができることを見出したという。尾動脈移植により細胞がどのような経路で下肢の骨に到達するかは、1,000nmを超える近赤外光を放つナノ粒子を細胞にみたて、尾動脈移植直後からビデオ撮影をして明らかにした。

さらに、生体発光イメージングを用いて、左心室と尾動脈から移植したがん細胞の体内分布を可視化したところ、左心室から移植されたがん細胞は全身組織に分布し、尾動脈から移植されたがん細胞は主にマウスの下半身に分布していることが判明。両手法について、同数のがん細胞を移植して2週間後の大腿骨に形成された骨転移病巣(赤色)を比較すると、尾動脈移植による骨転移病巣は有意に成長が亢進していた。また、従来の左心室法では、マウスは頭部に形成された転移が原因となり短命だったが、新規の尾動脈法では、100%の成功率で骨転移が形成され、長期の観察が可能であった。さらに、尾動脈移植により、乳がん、前立腺がん、肺がん、腎がんなど、これまで左心室法では骨転移の再現が難しかったがん細胞の骨転移モデルの構築に成功した。

これらの結果は、尾動脈からがん細胞を移植することで、高効率かつ特異的にがん細胞をマウスの骨髄に送達することが可能となり、簡便・確実・短時間に骨転移病巣が形成され、長期にわたって骨転移を観察できることを示している。この新たな骨転移モデルにより、骨転移研究の裾野が広がり、がんに関する新規治療法や新薬の開発が進む、と研究グループは述べている。

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