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凍結保存の血液でも免疫状態測定できる新手法開発-国がん

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2016年02月17日 PM12:30

従来法と比べ、100分の1以下の低濃度抗体でも測定可能

国立がん研究センターは2月15日、国がん先端医療開発センター臨床薬理トランスレーショナルリサーチ分野の濱田哲暢分野長と国がん中央病院先端医療科の北野滋久医員の共同研究グループが、患者自身の免疫状態、特に抗体により免疫細胞をがん周囲に呼び寄せ、集まった免疫細胞を活性化する作用()の新たな測定方法の開発に成功したと発表した。


画像はリリースより

抗体薬には、がん細胞の表面に発現する標的抗原(標的分子)に結合し抗腫瘍効果を示す直接的な作用のほかに、患者自身の免疫細胞を介して抗腫瘍効果を発揮する作用がある。そのため、標的抗原の発現量だけでなく、患者自身の免疫状態、特にADCC活性をどの程度誘導できるかが治療効果に大きく影響すると考えられている。抗体薬の投与では、標的抗原の発現量や遺伝子変異を確認することで治療効果の予測が行われているが、従来のADCC活性測定法は測定結果が不安定のため患者の免疫状態を把握することは困難で、より正確な測定法の開発が求められていた。

研究グループによると、開発した新たな測定方法では、あらかじめ標的がん細胞に緑色色素を取り込ませて、標的がん細胞(緑色色素を取り込ませたもの)と免疫細胞(緑色色素取り込みなし)を区別できるようにした。さらに、両細胞について、それぞれ生きている細胞と死滅した細胞を区別できる色素で標識し、フローサイトメーターという装置を用いて測定することにより、がん細胞と免疫細胞をそれぞれ別々に、生きている細胞と死んだ細胞に細胞一個単位で区別できるようになった。この手法により従来の測定法に比べてより情報量が多く、より精細な測定が可能になり、実際に比較すると、新たな測定法では従来の測定法と比べて100分の1以下の低濃度の抗体でADCC活性が測定可能であることがわかった。

抗体薬の効率的な開発に期待

また、従来の測定法では血液検体をいったん凍結保存してしまうと測定結果のバラツキが大きくなり、不安定で再現性が乏しくなるため、採血後にその場ですぐに測定しなければならなかったが、新たな測定法では、凍結検体を用いても1か月以上にわたり再現性をもってADCC活性が測定できることが確認できたとしている。

この研究成果は、従来の測定法よりも高感度にADCC活性を検出できることから、個々の患者の免疫状態をより詳細に把握することで、抗体薬の治療効果予測に役立つことが期待できる。また、凍結保存した検体でもADCC活性を安定して測定できることにより、他施設で採取した血液検体をいったん凍結した後、国がんに輸送し、後日測定することも可能となる。新規薬剤開発の面からも多施設共同臨床試験が可能となり、効果の期待できる患者の選別や開発を進めるか中止するかの判断などに役立ち、抗体薬の効率的な開発につながることも期待されると研究グループは述べている。

今後は、ADCC活性の測定をはじめとする「免疫モニタリング解析」を活用し、さらには研究所での「遺伝子プロファイリング解析」や「薬物動態解析」と連携して、がん患者個別の免疫状態と抗体薬の治療効果の相関について研究する予定。なお、研究成果は、オンライン科学誌「Scientific Reports」に1月27日付けで掲載された。

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