SSRI型抗うつ薬による脳内の遺伝子発現変化、メカニズムは未解明だった
東北大学は11月4日、マウス神経細胞において、抗うつ薬3種が異なる遺伝子発現を誘導することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の山本創大学院生(研究当時)、安部健太郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」電子版に掲載されている。

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うつ病は、気分の落ち込みや社会的機能の低下などを長期にわたって引き起こす精神疾患であり、慢性的な脳の機能障害と考えられている。うつ病治療では、モノアミン仮説に基づいて作製された抗うつ薬がよく使用されているが、症状が改善するまでに時間がかかることや、治療薬の効果に個人差があることなどが課題となっている。
研究グループは、SSRI型の抗うつ薬の投与が実験動物脳内の遺伝子発現パターンを変化させることを報告していた。しかし、観察された遺伝子発現変化が、SSRIの主効果であるシナプスでのセロトニン量増加によって生じているのか、あるいは別の分子経路も介して生じているのかは不明だった。
同じSSRI型抗うつ薬でも遺伝子発現への影響に違い、培養神経細胞で発見
研究グループは今回、セロトニン産生細胞を含まない大脳皮質の培養神経細胞に対して、広く処方されているSSRI型の抗うつ薬である、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラムをそれぞれ投与し、遺伝子発現解析を実施した。
その結果、3種の薬剤が神経細胞内の遺伝子発現プロファイル(組織や細胞の中の遺伝子発現を網羅的・体系的に表したデータ)を変化させることが明らかになり、さらに薬剤ごとに遺伝子発現への影響が異なることが見出された。これは、セロトニンの再取り込み阻害を目的として作られた薬剤の効果としては想定されない結果と言える。
各抗うつ薬に特異的な変動遺伝子群を同定、セロトニン非依存的なメカニズム示唆
次に、トランスクリプトーム解析の結果に対して、自己組織化マップ(人工ニューラルネットワークの一種で、高次元データを低次元のマップに配置して可視化・分類する手法)を用いた解析を実施し、各抗うつ薬に対して特異的に発現変動を示す遺伝子群を明らかにした。また、同定されたこれらの遺伝子群の中には、生体マウスに抗うつ薬を投与した際も、同様の発現変動を示す遺伝子も存在することを明らかにした。
この結果は、同じ分子標的に作用するように作製された抗うつ薬でも、セロトニンとは別の副次的経路を介して脳に異なる影響を及ぼし得ることを示唆する。
うつ病の病態解明やより効果的な抗うつ薬開発への貢献に期待
今回の研究では、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラムがセロトニンを介さないメカニズムにより遺伝子発現に影響していることを、マウスモデルを用いて見出した。類似する結果がヒトを対象とした解析でも確認される場合、ヒトで観察される抗うつ薬の治療効果の個人差は、このような副次的影響によって説明される可能性がある。
「本研究では、各抗うつ薬が有する作用機序は明らかにはされていないが、これまでの知見から、それぞれ異なる分子に影響する可能性が提唱されている。今後、各種の抗うつ薬の詳細な作用機序と、それらメカニズムとうつ病との関連性の解析が進むことで、より効果的な抗うつ薬の開発や、うつ病の病理解明につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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