地域がん登録、集計対象地域は22から44地域まで大幅増加
国立がん研究センターは11月19日、地域がん登録データを活用し、2012~2015年診断症例の5年生存率を報告書にまとめ公表したと発表した。この研究は、同センターがん対策研究所を中心とする厚生労働科学研究費補助金「がん統計を活用した、諸外国とのデータ比較にもとづく日本のがん対策の評価のための研究」班らの研究グループによるもの。

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地域がん登録は、都道府県のがん対策を目的に1950年代より一部の県で開始された。研究グループは日本のがんの実態を明らかにするため、各都道府県の地域がん登録からデータを収集、集計報告を行って以降、年々参加都道府県が増加し、2012年診断症例で全47都道府県のデータがそろった。
地域がん登録データを活用した生存率は、古くから大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(旧大阪府立成人病センター)を中心とする研究グループで算出されてきた。研究グループは、第3次対がん総合戦略研究事業の活動を引き継ぎ、2000年の診断症例以降、日本のがん患者生存率を計測している。集計対象6地域にもとづく2000~2002年診断症例の生存率から始まり、前回の22地域にもとづく2009~2011年診断症例の生存率、そして今回、集計対象地域が大幅に増加し、44地域にもとづく2012~2015年診断症例の生存率を報告することとなった。また、今回の報告では1993年からの過去分のデータも再集計し、比較可能な年次推移も報告している。
対象地域拡大に伴い254万症例を集計、今回から相対生存率を純生存率に変更
今回の集計では、各都道府県が地域に居住するがんと診断された患者の情報を収集・整理した地域がん登録データを利用した。生存率の推定には純生存率を用いた。純生存率は「がんのみが死因となる状況」を仮定して、がんが予後へ与える影響を評価するための生存率である。これまで生存率の推定には相対生存率を用いていたが、相対生存率は実際より過大推定となる恐れがあるため、今回の集計から純生存率に変更した。
集計対象地域は44地域(前回22地域)で、国際精度基準を満たしている。対象地域は北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、鹿児島県、沖縄県である。
集計対象症例は254万6,954症例(前回59万1,778症例)である。対象となるのは、2012年1月1日~2015年12月31日の4年間に、医療機関でがんと診断またはがんの治療が行われた症例、もしくは死亡診断書にがんの診断情報が含まれる症例で、かつ地域がん登録にがん罹患症例として登録された0~99歳の症例である。ただし、性別不詳の症例、死亡診断書の情報のみの症例、良性、良悪性不詳、上皮内がんの症例は除外した。
なお、登録漏れの少ないがん登録情報が整備されたため、今回の集計からがん死亡情報からの遡り調査による登録を集計に含めている。
小児がん5年純生存率82.3%、がん種による差が大きいことが判明
AYA・成人(15歳以上)で男女計の5年純生存率は、胃63.5%、大腸(直腸・結腸)67.2%、肝および肝内胆管33.7%、肺35.5%、女性乳房88.7%、子宮75.9%、前立腺94.3%だった。国際がん生存率標準ICSSで年齢調整した国際比較用数値では、胃65.7%、大腸(直腸・結腸)69.1%、肝および肝内胆管36.8%、肺40.1%、女性乳房87.9%、子宮70.0%、前立腺94.2%だった。ICSSを用いた年齢調整によって大きな差異があることがわかった。
小児(15歳未満)では、全分類の5年純生存率が82.3%であった。がん種別では、胚細胞性腫瘍、絨毛性腫瘍、性腺腫瘍が94.5%、網膜芽腫が94.6%と高い値を示す一方、中枢神経系、その他頭蓋内、脊髄腫瘍は57.1%と低く、分類によって大きな差が見られた。
胆のう・胆管/膵臓がんは男女とも予後不良、脳・中枢神経系がんで男女差
男性では、生存率によって3つの群に分けられる。高生存率群(70~100%)には前立腺、皮膚、甲状腺、乳房、喉頭が含まれ、中生存率群(30~69%)には大腸、腎・尿路(膀胱除く)、膀胱、胃、悪性リンパ腫、口腔・咽頭、多発性骨髄腫、食道、白血病、肝および肝内胆管、肺が含まれる。低生存率群(0~29%)には脳・中枢神経系、胆のう・胆管、膵臓が含まれる。
女性では、高生存率群(70~100%)に甲状腺、皮膚、乳房、子宮、喉頭が含まれ、中生存率群(30~69%)には悪性リンパ腫、大腸、口腔・咽頭、胃、腎・尿路(膀胱除く)、膀胱、肺、食道、多発性骨髄腫、白血病、脳・中枢神経系、肝および肝内胆管が含まれる。低生存率群(0~29%)には胆のう・胆管、膵臓が含まれる。
進行度による影響、胃がん・大腸がん・女性の乳がんなどで大きいことが判明
経時的な生存率の変化(純生存率曲線)として、診断から1年目の純生存率は、肝および肝内胆管で男性65.9%、女性62.8%、胆のう・胆管で男性55.0%、女性45.4%、膵臓で男性39.0%、女性35.7%で下降が大きかったが、2年目以降の下降は小さかった。多くの部位では、5年を通して男性の方が、女性より生存率が高く、逆に女性の方で明らかに生存率が高い部位は、口腔・咽頭、食道、肺、脳・中枢神経系、甲状腺、悪性リンパ腫だった。
また、進行度による生存率の違い(臨床進行度別5年純生存率)を見ると、限局で診断されたがんでは、胃92.4%、大腸(直腸・結腸)92.3%、肝および肝内胆管49.7%、肺77.8%、女性乳房98.4%、子宮94.2%、前立腺では105.6%となっていた。一方、遠隔転移まで進行すると、胃6.3%、大腸(直腸・結腸)16.8%、肝および肝内胆管3.1%、肺8.2%、女性乳房38.5%、子宮21.0%、前立腺では52.0%となっていた。
なお、前立腺や甲状腺(乳頭・濾胞癌)などの生存率の高いがん種では、一般の集団よりも健康に留意し医療機関を受診することなどの理由から、生存率が100%以上になることがある。
年齢による生存率格差、白血病や多発性骨髄腫などで大きい
年齢階級別5年純生存率は、多くの部位で年齢階級を追うごとに生存率は低くなっていたが、前立腺では若年の方が生存率が低く、皮膚がんでは全年齢階級でほとんど生存率に変化がなかった。年齢階級による生存率の差は、多くの部位で、男性に比べて女性の方が大きいことがわかった。
主要部位で見ると、年齢階級による生存率の差は男性では皮膚(1.9ポイント)、結腸(9.9ポイント)、乳房(12.3ポイント)、食道(13.8ポイント)で小さく、白血病(54.9ポイント)、脳・中枢神経系(47.2ポイント)、多発性骨髄腫(44.2ポイント)で大きいことがわかった。女性では皮膚(2.2ポイント)、乳房(7.2ポイント)、結腸(15.4ポイント)で小さく、白血病(54.2ポイント)、多発性骨髄腫(53.2ポイント)、卵巣(51.8ポイント)、脳・中枢神経系(50.2ポイント)で大きいことがわかった。
1993~2015年の5年純生存率、血液がんで改善も膀胱がん・子宮頸がんなどで低下
これまでの全国がん罹患モニタリング集計プロジェクトを7期間に区分し、主要21部位別に純生存率を比較した。第1期と第7期を比較して、男性では、多発性骨髄腫(21.0ポイント)、前立腺(34.9ポイント)、悪性リンパ腫(18.2ポイント)において大きな生存率の向上が見られ、女性では、悪性リンパ腫(21.6ポイント)、多発性骨髄腫(15.5ポイント)、肺(18.4ポイント)、白血病(19.5ポイント)において、同様の大きな向上が見られた。一方、両性別ともに、膀胱は生存率が低下(10.6ポイントおよび5.9ポイント)しており、さらに女性では、子宮頸部でも低下(1.3ポイント)が見られた。また、甲状腺、皮膚など、もともと生存率が高かった部位は大きな変化が見られないだけではなく、胆のう・胆管や、膵臓、女性の口腔・咽頭では大きな向上は見られず、依然として低い水準の生存率にとどまっていることが示された。
生存率の経年変化は、治療方法や、早期診断割合、医療アクセスの変化など多くの要因に影響される。がん生存率の変化を適切に解釈するには、がん登録情報を基盤として他の関連データも併せた総合的な分析が必要である。
2016年以降は全国がん登録による生存率報告に移行
全国がん登録の開始により、2016年診断症例からは全都道府県を対象とした生存率が集計可能となる。今回の報告は、約30年にわたる期間の生存率推移とともに、最新年においては、ほとんどすべての地域を対象に集計した、地域がん登録によるがん生存率の総括である。今後は全国がん登録にもとづく生存率が報告されることとなるが、今回の報告はそれに先立ち日本におけるがん生存率の実態を明らかにするものである。なお、2016年1月より開始された「全国がん登録」における同年診断症例の生存率は、この報告以降の公表になる。
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・国立がん研究センター プレスリリース


