母体要因が主因となる後期流産、PFASばく露の詳細な影響は未解明
国立環境研究所は10月31日、エコチル調査の2万4,412組の親子のデータを用いて、血しょう中の有機フッ素化合物(PFAS)と後期流産(妊娠12~22週の間に発生する流産)との関連について解析した結果を発表した。この研究は、同研究所エコチル調査コアセンターの龍田希主任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Hygiene and Environmental Health」に掲載されている。。

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子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート研究である。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が共同して実施している。
一般的に、全妊娠の約15%が流産に至るとされており、その80%以上は妊娠12週までに発生する早期流産で、残りは妊娠12週から22週に発生する後期流産である。日本産婦人科医会によると、早期流産の多くは妊卵の異常が原因であるが、後期流産では母体側の異常が多いことがわかっている。母体側の異常の要因の一つに化学物質ばく露があり、PFASばく露の影響も懸念されているが、一貫した研究成果が得られていない。そこで、今回の研究では、妊娠中のPFASばく露と後期流産の関連を検討することを目的とした。
妊娠中血しょうPFAS濃度を測定した2万4,412組、検出可能なPFAS8種との関連を解析
今回の研究では、全国約10万人の妊娠女性のうち、血しょう中PFAS濃度を測定した親子を対象とした。妊娠中に採取した血しょうを用いて28種のPFASを測定し、後期流産の有無や母親の年齢、妊娠前のBMI、妊娠回数に関する情報と合わせて2万4,412組を解析対象とした。測定した28種のうち、11種のPFAS(PFTeDA、PFHxDA、PFODA、PFDS、EtFOSA-A、MeFOSA-M、EtFOSA-M、4:2FTS、6:2 FTS、8:2 FTS、diSAmPAP)は、全例で検出下限値(MDL)未満だったため、解析から除外した。残りのうち、6割以上がMDL未満だった9種のPFAS(PFBA、PFPeA、PFHxA、PFHpA、PFBS、PFHpS、MeFOSA-A、6:2diPAP、8:2diPAP)はMDL以上/未満に分類し、検出率の違いを比較した。それ以外の8種のPFAS(PFOA、PFNA、PFDA、PFUnA、PFDoA、PFTrDA、PFHxS、PFOS)についてはほとんどがMDL以上であったことから、PFAS濃度が後期流産に関連するかを検討した。
妊娠中のPFAS検出率や血中濃度と後期流産との間に関連は認められず
解析の結果、後期流産は66組(0.3%)にみられた。これらの後期流産群と、母親の年齢、母親の妊娠前BMI、妊娠回数が同じ条件の生産群(264組)について、妊娠中のPFASの検出率や血中濃度と後期流産との間に関連は認められなかった。また、複数のPFASへの同時ばく露を考慮した解析でも関連は見られなかった。
PFAS以外の化学物質も含めた解析が今後求められる
今回の研究では、血しょう中PFAS濃度を測定した2万4,412人の妊娠女性のうち、後期流産は66例と数が少なく、統計的な不確実さが大きいことが考えられる。また、流産の多くは妊娠12週までに発生しているが、エコチル調査は妊娠12週以降の妊娠女性を対象に参加を募り、出生後の子どもを追跡するため、早期流産が含まれていない。同研究では妊娠中のPFASばく露と後期流産との間に関連は見られなかったが、この結果をもってPFASばく露と流産との関連について結論づけることはできない。また、PFAS以外の化学物質(ダイオキシンなど)も流産のリスク要因と言われており、これらを含めた解析が今後求められる、と研究グループは述べている。
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・国立環境研究所 プレスリリース


