二足立位のふらつき具合とアキレス腱の伸びやすさの関係に着目
埼玉県立大学は10月31日、アキレス腱の伸びやすさと二足立位のバランス能力の関係性を調査し、高齢者はアキレス腱が柔らかくなることでバランス能力低下につながることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大保健医療福祉学研究科(大学院)の宮澤拓氏、金村尚彦教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Applied Physiology」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
身体を動かす原動力として、筋肉は最も重要である。しかし、筋肉は腱を介して骨を動かすため、腱もヒトの運動において重要な役割を果たしている。ジャンプなどの大きな動作で腱が「バネ」の役割をすることは古くから知られている。今回研究グループは、年齢を重ねるとアキレス腱の伸びやすさがどのように変化するのか、そして日常の生活にどのような影響があるのか、という疑問を解決するために調査を実施した。じっと立つ、という一見簡単な課題でも、年齢とともにふらつきが出る。また、二足立位を保つために最も重要とされるふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)は、アキレス腱につながっている。今回の研究では、バランス能力の低下の起点にある、二足立位のふらつき具合とアキレス腱の伸びやすさの関係を明らかにすることを目標とした。
超音波エコーと圧力センサーを用い、立位時の腱の伸びやすさと筋肉の伸縮を計測
研究グループは、若年者と自立した生活をしている高齢者を対象に調査を行った。まずアキレス腱の硬さを調べるため、超音波エコーを用いて腱の伸びやすさを計測した。次に、立っている時のふらつき具合をみるため、身体の動揺を計測できる特別な圧力センサーの上に立ってもらった。この時、再度超音波エコーを用いて、筋肉と腱の伸び縮みを計測。じっと立っているだけで一見身体はほとんど動いていないように見えるが、下腿三頭筋は細かに伸び縮みがあったため、その長さを解析した。
高齢者はアキレス腱が柔らかく、筋肉が縮んで「力が出にくい」状態
若年者と高齢者とでアキレス腱の硬さを比較したところ、高齢者の方が腱が柔らかい(伸びやすい)ことが明らかになった。立っている際の計測では、若年者も高齢者も自覚しないほど小さく前方に倒れる瞬間に下腿三頭筋に力が入り、筋肉が収縮し、その分アキレス腱は伸びていた。また、若年者よりも高齢者の方がより筋肉が縮んでいたことがわかった。そして、高齢者特有の”筋肉の縮み”はバランス能力を反映されると言われるわずかなふらつき具合に強く影響していた。つまり、筋肉がより縮んでいる人は立っている時のバランスが悪いことがわかった。
筋肉と腱は連結しているため、腱が柔らかすぎる(伸びやすい)と筋肉は縮まざるを得ない。筋肉は縮んだ状態では力が入りづらいという特徴があり、立っている時に高齢者の下腿三頭筋は力が入りづらい状況にある可能性がある。そしてそれが年齢とともに生じるふらつきに関係している可能性を示した。
筋力発揮には適度な腱の張りが必要、今後「腱トレ」による効果に期待
年齢とともに増加するふらつきは、筋力の低下や感覚の鋭敏さが鈍磨するためと考えられていた。しかし自身の持つ筋力を十分に発揮するためには腱に適度な張り具合が必要であり、伸びやすい腱は筋力低下やバランス低下につながっている可能性がある。今回の成果は、筋トレならぬ「腱トレ」で腱を適度に硬くする運動プログラムに効果が期待できる可能性を示唆した。
「「年とともに歩く速度が遅くなった」、「久しぶりに運動したら走れなかった、ジャンプできなかった」ということがある。腱の伸びやすさが、このような動きのキレに影響している可能性がある。今回二足立位で行った研究を、さまざまな動作に応用できるよう研究を進めたい」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・埼玉県立大学 プレスリリース


