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ランナーに適した下肢の形状、3Dモデル解析で判明-筑波大

読了時間:約 2分58秒
2025年11月18日 AM09:30

走りの経済性を高める「先細り」の下肢、その軽さは「振りやすさ」に貢献するか?

筑波大学は10月30日、ランナーは経済的に走るために脂肪量を削ぎ落としているが、その下肢は軽さほどには振りやすくないことを発見したと発表した。この研究は、同大体育系の佐渡夏紀助教、枝川岳史氏(スポーツ医学学位プログラム(3年制博士課程)2年次)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Biomechanics」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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ランニング動作における下肢の前後スイングにおいて、理論的には力学的に振りやすい(慣性モーメントが小さい)下肢を持つことがエネルギー消費を抑えることにつながる。そのため、付け根(太もも)に重さが集中し、先端(足先)にいくほど軽い「先細り」な下肢は、力学的に経済性の高いランニングにつながると考えられている。

一方、ヒトの身体は、日々の運動習慣に応じてその形状を変化させる性質(可塑性)を持っている。日常的に長距離走を行うことで、ランニング動作に適応したランナーの下肢は、一般人より軽いことが知られている。そのため、ランナーの下肢は「軽い分だけ、下肢の振りやすさも向上している」と直感的に考えられがちである。しかし、その軽さが、機械的な「振りやすさ」にどれほど貢献しているのか、その軽さに見合った分だけ本当に振りやすくなっているのか、という点は詳しく検証されていなかった。

MRIで下肢の骨・筋肉・脂肪を3Dモデル化し、慣性モーメントを算出

研究では、男性大学生ランナー22人(170.3±5.4cm、56.6±4.3kg)と、ランナーと身長が同程度の運動習慣のない同年代の男性大学生18人(169.7±4.0cm、68.9±9.1kg)を対象に、磁気共鳴画像化装置(MRI)を用いて両下肢の詳細な画像を撮影した。得られた画像から、骨・筋肉・脂肪の分布を解析し、精巧な三次元(3D)モデルを構築した。このモデルを用いて、下肢全体の質量と、股関節を軸とした際の「回転のしにくさ(慣性モーメント)」を算出した。

ランナーの下肢は一般人より17%軽いが、振りやすさの差は10%に留まる

結果、ランナーの下肢は一般人に比べて17%軽い(56.6±4.6kg/68.9±9.1kg)ことが確認された。しかし、慣性モーメントを比較したところ、ランナーの下肢は一般人に比べて小さいものの、その差は10%(1.8±0.3kg.m2/2.0±0.3kg.m2)と、質量ほど差が大きくないことが判明した。つまり、ランナーの下肢は「軽い」にもかかわらず、その軽さに見合うほど「振りやすく」なっていなかった。

一般人は大腿の脂肪、ランナーは下腿の筋量が「振りやすさ」に影響

さらに分析を進めたところ、慣性モーメントの個人差に影響する要因が、ランナーと一般人で異なることがわかった。一般人では、慣性モーメントの個人差は主に大腿(股関節から膝関節の部分、下肢の付け根側)の筋量および脂肪量と関係していた。一方、ランナーでは、慣性モーメントの個人差は特に下腿(膝関節から足関節の部分、下肢の先端側)の筋量と強く関係していることが明らかになった。

体脂肪が増えても移動能力を維持、ヒトが持つ特性である可能性

今回の発見は、ヒトの下肢が持つ優れた形態的な適応性を示唆している。一般人を「ランナーよりも体脂肪量が多い集団」という視点から結果を解釈すると、体脂肪が増加して下肢が重くなったとしても、下肢の回転のしにくさ(慣性モーメント)は重さほど大きく差が生じない、と捉えることができる。つまり、ヒトにおいては、質量の変化の大部分は下肢の付け根側で行われるため、体形の変化に依存せず経済的な移動能力を維持できる、と考えることができる。これは、長距離を経済的に移動するために、ヒトが種として持っている基本的な特性である可能性がある。

アスリートはふくらはぎの筋をつけすぎないことが、振りやすい下肢に重要

今回の研究成果は、アスリートやコーチに実践的なヒントを与える。一般人が下肢の振りやすさを高めるには、脂肪を減らすことが有効である。しかし、すでに減量が十分に進んでいるランナーがさらに振りやすい下肢を獲得するには、ふくらはぎに不必要な筋をつけすぎないことがより重要であることを示唆している。

「下腿の筋量はトレーニングによって変化しにくいという先行研究もある。このため、下肢の振りやすさには、トレーニングなど後天的な要因だけでなく、生まれ持った要因が関わっている可能性も考えられる。今後は、下腿の筋量の増大を防ぐトレーニング方法があるのか、それにより下肢の振りやすさを損なわずに長距離走パフォーマンスを向上させることができるのかについて、縦断的な研究で検証していく必要がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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