腸内環境を簡易的にモニタリングする技術は現存せず困難だった
京都大学は10月28日、腸内環境モニタリング機能付きデジタル錠剤に向けた胃酸充電半導体集積回路の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院情報学研究科の新津葵一教授、ウ ヨウ(Wu You)同修士課程学生、大塚製薬株式会社ポートフォリオマネージメント室の大西弘二プリンシパル、同デジタル事業室の山根育郎課長らの研究グループによるもの。研究成果は、「IEEE Nordic Circuits and Systems Conference」において発表された。

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生体内センシングは、健康状態を把握するための有効な手段と考えられており、特に腸内環境のモニタリングは大きな注目を浴びている。近年の研究により腸内環境が心身の健康と関連することが明らかになり、腸内環境(例えば温度やpH)をモニタリングする需要が高まっていた。しかし、腸内環境を簡易的にモニタリングする技術は存在せず困難だった。
胃酸発電で得た電力を使い、腸内深部体温をモニタリングする技術を確立
腸内環境をモニタリングする将来技術として、デジタル錠剤が注目を浴びており、研究開発が行われているが、実用化については胃酸発電を用いた服薬管理への適用にとどまっており、デジタル錠剤を用いた体内モニタリング機能については実現されていなかった。
デジタル錠剤を体内モニタリングへと適用するためには、電力の確保が課題となっていた。デジタル錠剤は、胃酸発電用の電極を搭載した半導体集積回路と薬剤成分で構成されており、電池やバッテリーや積層セラミックコンデンサなどの部品を搭載するスペースがないため、半導体集積回路のみでの電力の確保が必要だった。
そこで研究グループは、腸内環境モニタリング機能を実現するために、デジタル錠剤を構成する半導体集積回路上のコンデンサに胃酸発電で得られた電力を充電・蓄電し、腸内の深部体温やpHをモニタリングするための基盤技術を提案・確立した。
胃酸発電された電力の充電電圧を工夫、動作安定性と電力利用効率の向上も実現
具体的には、胃酸発電された電力を集積回路内に充電する際の充電電圧を工夫した。集積回路上の限られた容量のコンデンサで十分な電力量を蓄電するための高電圧充電技術を提案した。蓄電される電力量は充電電圧の2乗に比例するため、飛躍的に電力量を大きくすることが可能となった。
さらに、高充電電圧下においても、低電圧耐圧トランジスタを安定的に動作させるための、電源電圧方向に回路を縦積みする電圧スタッキング技術を導入した。高電圧を回路に印加させることは、不安定動作につながってしまうが、1段あたりに印加される電源電圧を、段数分の1(1/段数)と分割して印加することで安定動作させることに成功した。同時に、スタッキングされた回路間で電流を再利用することにより電力利用効率を高めることに成功した。これらの提案技術の有効性を65nm CMOSプロセスで試作した半導体集積回路で実証した。
モニタリング機能付きデジタル錠剤による疾病の早期発見や健康管理への貢献に期待
体内モニタリング機能付きのデジタル錠剤を開発することで、簡易的な体内モニタリングが可能となり、疾病の早期発見や健康状態の詳細な把握、日々の健康管理に貢献することが期待される。例えば腸内環境を把握し改善することで、免疫機能を高めることが期待される。
「今回、体内モニタリングの基盤技術を確立したが、さらに高性能化を進めるとともに安全性についての検証を行い、動物実験や臨床試験での有効性実証を目指す」と、研究グループは述べている。
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