心臓病や動脈硬化との関連が示唆されるMD-1、詳細なメカニズムや免疫への影響は未解明
愛知医科大学は10月25日、高脂肪食負荷後のLDL受容体およびMD-1分子二重欠失マウス(LDLr-/-/MD-1-/-)の肝臓でのリンパ球浸潤がMD-1ヘテロマウス(LDLr-/-/MD-1+/-)より増強していることを見出し、このリンパ球浸潤領域の面積と高脂血症による肝臓への脂肪蓄積領域の面積との相関を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部感染・免疫学講座のMrityunjoy Biswas博士、髙村祥子教授、病理学講座の笠井謙次教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。

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高脂血症では、自然免疫細胞の代表であるマクロファージの活性化などの免疫異常が認められることが明らかになってきている。一方、獲得免疫細胞であるリンパ球の異常に関する報告はまだ十分示されていない。
MD-1(ly86)はRP105というTLR4と類似した構造を持つ膜貫通分子と複合体を形成し、炎症や肥満、インスリン抵抗性などに関与する糖タンパク質である。MD-1欠失マウスにおいて、圧負荷による心臓リモデリングや高脂肪食誘発性の炎症性心房線維症を含む心臓病変の悪化がこれまで示されている。さらにMD-1発現が動脈硬化症で上昇していることがDEG解析(発現変動遺伝子解析)で示され、ヒトの動脈硬化プラークにMD-1が存在することも明らかにされている。しかしMD-1が動脈硬化へどのような影響を及ぼすかはわかっていない。
LDL受容体・MD-1の完全欠失マウス、動脈硬化への影響はないが免疫バランスに異常
そこで今回研究グループは、高脂肪食負荷での動脈硬化発症モデルによく使用されるLDL受容体の欠失マウスとMD-1欠失マウスとをかけ合わせて得られたオス兄弟同士のMD-1ヘテロマウス(LDLr-/-/MD-1+/-マウス)と二重欠失マウス(LDLr-/-/MD-1-/-マウス)とにおいて、24週間の高脂肪食負荷による動脈硬化の発症状態や血清生化学、脂質、免疫細胞の割合などを調べた。
MD-1欠失による明らかな動脈硬化発症への影響は見られなかったが、LDLr-/-/MD1-/-マウスではLDLr-/-/MD-1+/-マウスに比べて、著しく血清の総タンパク質、中性脂肪、コレステロール、およびLC/MSで検出された脂溶性化合物が増加していた。また末梢血のB細胞の割合の上昇や(B220+CD3–細胞の割合の中央値:LDLr-/-/MD-1+/-マウス:47.05%、LDLr-/-/MD-1-/-マウス:51.25%)、血清抗体価におけるIgE抗体産生誘導に傾くTH2シフトなどの免疫異常も有意に認められた。さらにそれぞれのマウスから採取した脾臓細胞をPMAおよびionomycinで活性化刺激すると、IL-4を産生するT細胞がLDLr-/-/MD-1-/-マウスではLDLr-/-/MD-1-/-マウスに比べてより多く認められ、細胞レベルでもTH2シフトを示すこともわかった。
MD-1完全欠失マウスの肝臓で脂質蓄積と相関したリンパ球の浸潤増強を確認
また一方で、大部分の末梢B細胞を占めるB2細胞や、ヘルパーT細胞に属するCD4T細胞主体の肝臓へのリンパ球浸潤が、無作為に切断して作製した切片上でより多くLDLr-/-/MD-1-/-マウスで認められた。この肝臓でのリンパ球浸潤の面積割合と、肝臓での脂質蓄積の面積割合とがLDL受容体欠失マウス全体で相関を示したことから、高脂血症を介した肝臓への脂質蓄積により、リンパ球浸潤が増強した可能性が示唆された。以上よりLDL受容体欠失マウスでは、MD-1欠失により高脂血症の増悪や、TH2シフトなどの免疫異常、さらには肝臓リンパ球浸潤の増強などが見られることがわかった。
MD-1の免疫調節機能を初めて発見、肥満・免疫異常・疾患発症の関連解明に期待
MD-1はヒトの血清中にも存在し脂質を挟み込むポケットを持つ構造をしており、リン脂質をはじめさまざまな脂質と結合することが構造解析でも明らかになっているが、生体での機能はまだよくわかっていない。MD-1が肥満に関与することを示唆する報告はこれまでにもあったが、MD-1欠失により高脂血症を介した肝臓へのリンパ球浸潤が増強したり、免疫異常が認められたりすることは、今回初めて明らかになった。脂肪肝モデルマウスでは、B2細胞の形質細胞への成熟やIgGレベルの上昇が特徴的であり、B2細胞から産生された抗体(IgG2c抗体など)がM1マクロファージ細胞やTH1細胞の集積を誘導することが示されてきている。
今回のLDLr-/-/MD-1-/-マウスで認められたTH2抗体産生シフト(IgG2c低下、IgE上昇)により、脂肪肝による肝臓傷害やTH1細胞およびM1マクロファージ細胞活性化を伴う動脈硬化発症が、高脂血症状態にしてはある程度制御されていた可能性も考えられる。「今回の結果から、MD-1を基軸とした解析は、肥満と免疫異常および疾患発症との関連を探るのに今後も有用になる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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・愛知医科大学 プレスリリース


