運動中の脳疲労、客観的に評価する方法は未確立
新潟医療福祉大学は10月28日、運動負荷を中強度から高強度へ上げていく際の表情の変化解析し、特に口元の動きが大きい人ほど、心理的覚醒度が低下していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大健康スポーツ学科の越智元太講師、小山智也氏(健康スポーツ学科4年)、小根山慶汰氏(健康スポーツ学分野修士課程1年)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Sports Sciences」に掲載されている。

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アスリートにとって、運動中の集中力や判断力(実行機能)を維持することは、パフォーマンス向上と怪我防止に不可欠である。激しい運動は身体だけでなく「脳の疲労」も引き起こし、実行機能を低下させることが知られている。
マラソン中継などで「選手の口が開いてきた、疲労が伺える」といった解説が聞かれることがあるが、運動中に口が開く現象は、この脳疲労のサインである可能性がある。しかし、運動中の脳疲労をリアルタイムで簡単に評価する方法はまだ確立されていない。
唇の開き(AU25)の変化量が集中力・注意力低下と有意に相関
研究グループは今回、健康な男子大学生25人を対象に、サイクルエルゴメーターを用いた運動テストを実施した。運動中の顔の表情をビデオカメラで記録し、Python表情解析ツールボックス(Py-Feat)を用いて16種類のAus(表情の動き)を解析した。同時に、心拍数、血中乳酸濃度、主観的運動強度(rate of perceived exertion:RPE)、二次元気分尺度(Two-Dimensional Mood Scale:TDMS)による覚醒度を測定した。
結果、AU10(上唇挙上)、AU17(あご挙上)、AU25(唇の開き)、AU26(あご下げ)が運動強度や心拍数、血中乳酸濃度、RPE(運動のきつさ)と関連していることがわかった(r=0.314-0.631、全てP<0.05)。
特に重要な発見として、運動の強さが中強度から高強度運動へ変わるときに、AU25(唇の動き)の変化量が、集中力や注意力の低下と有意に関係していることがわかった(r=-0.421、P<0.05)。
体に負担をかけずリアルタイム評価へ、トレーニング負荷管理への貢献に期待
激しい運動時に起こる認知疲労は、パフォーマンスの低下や、判断ミスによる怪我のリスクを高める重要な問題である。今回の成果は、顔の表情を画像解析することで、体に負担をかけずに、運動中の心と体の反応をモニタリングできることを実証した。
「AU25(唇の開き)の変化は、激しい運動時の心理的覚醒度低下(集中力や注意力の低下)を予測する信頼性の高い指標である。この方法は、既存のカメラや顔認識デバイスとの統合が可能で、アスリートのトレーニング負荷管理や、認知機能を最適化する運動プログラムの設計に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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