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衣服型筋電図システム開発、ダイナミックな全身動作でも安定計測可能-理研ほか

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2025年10月23日 AM09:30

全身筋電図計測を実現するスマート衣服、ノイズ克服が課題だった

理化学研究所は10月16日、ダイナミックな動作中でも全身に分布する筋肉の活動を高精度に取得できる、衣服型の無線筋電図計測システムを開発したと発表した。この研究は、同研究所 開拓研究所 染谷薄膜素子研究室の李成薫研究員(東京大学大学院工学系研究科特定客員准教授)、染谷隆夫主任研究員(東京大学大学院工学系研究科教授)、東京大学大学院工学系研究科の横田知之准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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近年、ウエアラブルデバイスやIoT(モノのインターネット)の発展により、日常生活や運動中の行動、健康状態を計測・解析する技術が広がっている。腕時計型やリストバンド型のデバイスでは、心拍や歩数、消費カロリーなどの生体情報を手軽に取得できるようになってきた。さらに、柔らかい電子素材や薄型の電子デバイスを活用した次世代ウエアラブル技術の開発が進められており、装着時の負担を減らし、より自然な状態で計測することが可能になりつつある。

その中で、衣服に電子機能を組み込んだスマート衣服が注目されている。着るだけで自然な活動中の信号を取得でき、体のさまざまな部位にも容易に装着できることから、医療やスポーツ、日常生活のモニタリングなど幅広い場面での活用が期待されている。特に、筋肉の活動を表す筋電図は、リハビリやスポーツパフォーマンスの評価など多岐にわたる応用が期待されており、スマート衣服による計測の試みも進められてきた。

しかし、さまざまな動作中に全身の筋電図を計測できるスマート衣服の実現には課題があった。筋電図はわずか数ミリボルト程度の微弱な信号であるため、全身計測に必要なメートル単位の配線では、配線に混入されるノイズに信号が埋もれやすくなってしまう。実際に、体の動きによって生じるモーションアーチファクトや、外部の電磁場、周辺との物理的な接触などによって信号は容易に乱される状態であった。

伸縮性同軸配線の3層シールド構造で、外部ノイズ混入を大幅に抑制

今回研究グループは、外部ノイズ環境下においても全身に分布する筋電図を高精度に計測できる、衣服型無線筋電図計測システムの開発に成功した。開発したシステムは、信号線、絶縁層、シールド導体の3つの伸縮性材料からなる伸縮性同軸配線によって実現されている。具体的には、伸縮性導電糸を信号線として使用し、その周囲をポリウレタンの絶縁層でコートした後、伝導性を付与するため、銀の断片である銀フレークとフッ素系ゴムからなる伸縮性導体インクを浸漬工程でコートすることで、3層構造の配線を作製した。

このシールド導体は、伸縮時にも亀裂が入らず信号線が外部に露出することを防ぎ、80%伸長時においても電気抵抗は60Ω(Ω:オーム。電気抵抗の単位)以下であり、十分な導電性を保持することが確認された。その結果、このシールド構造により配線への外部ノイズ混入を大幅に抑制できた。特に、通常は大きなノイズ源となる他者との物理的な接触時でも、ノイズレベルが変動しないことを確認した。

他者介助時でも計測安定性を実証、微弱な筋活動を正確に識別

研究グループは次に、このシステムを用いて、リハビリ時のように他者によるサポートがある状況でも筋肉の活動を正確に計測できることを実証した。肩関節をさまざまな角度で動かし、三角筋の活動を計測したところ、自ら腕を動かす場合だけでなく、他者が腕を支えて動かす場合においても安定した高精度計測が可能であった。特に、腕を後方に約45度伸展させた際のような微弱な信号(約0.01ミリボルト)でも、安静時との区別ができることを確認した。一方、シールドのない配線では、配線に触れた際に顕著なノイズが生じ、安静時や特定角度での筋電図を識別することは困難であった。

ジャンプ・走行中の筋活動を高精度に記録、ノイズ0.1ミリボルト以下

さらに、両足の大腿四頭筋、前脛骨筋、ハムストリング、下腿三頭筋の8部位に電極を配置した衣服型無線筋電図計測システムを用いてジャンプや走行といったダイナミックな動作中の筋活動を計測した。その結果、ジャンプでは踏み切りから着地に至る一連の動作の中で各筋肉が順に活動する様子を明確に捉えることに成功した。また、走行時には左右の脚の筋活動が交互に現れるパターンを高精度に記録でき、歩行・走行のリズムや筋肉同士の協調的な働きを定量的に把握できることを実証した。さらに、いずれの条件においてもノイズレベルは0.1ミリボルト以下に抑えられ、外部環境の影響を受けない安定した信号取得が可能であることを示した。

介助動作の評価、スイング解析、在宅ヘルスケアなどへの展開に期待

今回の研究で、開発された衣服型無線筋電図計測システムにより、接触や多様な身体動作が伴う状況でも全身の筋活動を高精度に計測できることを実証した。

「医療やリハビリテーションでは歩行訓練や介助動作の評価に、スポーツ分野では野球やテニスにおけるスイング動作で腕や体幹の筋肉が瞬間的にどのように連動しているかを捉えるなど、激しい動作中のパフォーマンス解析などに役立つことが期待される。さらに、日常生活の行動を自然な状態でデータ化できるため、在宅ヘルスケアや高齢者の見守り、身体動作の記録を基盤とした新しいサービスや産業領域への展開も期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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