WHO推奨の院内騒音基準を大きく上回る現状、入院患者の心身に与える影響は?
大阪公立大学は10月6日、2014~2023年に発表された関連文献を対象にスコーピングレビューを実施し、抽出した28件の論文を調査した結果、病院内の騒音は、入院患者の睡眠時間の短縮や睡眠の質の低下だけでなく、心拍数・呼吸数の増加、不安の増大、せん妄の発症リスクの上昇、さらには再入院リスクの増加にも関連することが明らかとなったと発表した。この研究は、同大大学院看護学研究科の園田奈央准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Worldviews on Evidence-Based Nursing」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
医療機器の増加や高度化により、病院内の騒音レベルは上昇傾向である。世界保健機関(WHO)が推奨する騒音基準を大きく上回る状況が、医療現場において常態化している。こうした環境が入院患者の心身に与える影響を包括的に理解することは、療養環境における音環境の調整において中心的な役割を担う看護師にとって重要である。
スコーピングレビュー実施、研究対象として28件抽出
今回の研究では、病院内の騒音が入院患者の健康アウトカムに与える影響を明らかにするため、スコーピングレビューを実施した。PubMedやCINAHLなどの医学・看護系データベースから、noiseやsound、alarmなどのキーワードが含まれている5,851件の文献を抽出し、重複を除いた4,426件を対象に、2人の研究者が抄録によるスクリーニングを独立して行った。その結果、研究目的に合致する81件を特定し、さらに全文レビューを経て28件の文献を研究対象として抽出した。スクリーニング過程で意見の不一致が生じた場合、第三の研究者が介入し合意形成を行った。
院内騒音、入院患者の睡眠の質低下/再入院リスク増などと関連
この28件の論文を対象に、病院内の騒音と健康アウトカムの関連性を、統合的にマッピングして整理した。その結果、病院内の騒音は、入院患者の睡眠時間の短縮や睡眠の質の低下(睡眠関連アウトカム)だけでなく、心拍数・呼吸数の増加(生理的アウトカム)、不安の増大やせん妄の発症リスクの上昇(心理的アウトカム)、さらには再入院リスク(臨床的アウトカム)の増加にも関連していることが示された。
静かな院内環境の整備、患者の回復促進寄与の可能性
同研究成果は、静かな環境の整備が、患者の回復促進に寄与する可能性を示しており、今後の病院設計や看護実践に重要であることを示している。
今回の研究は、病院内の騒音が入院患者の健康に与える影響を明らかにしたものである。病院内の騒音は、入院中だけでなく、退院後にも影響する。患者にとってより良い療養環境を実現するために、今後は、騒音低減に向けた取り組みの重要性を広く発信していきたい、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪公立大学 プレスリリース


