VAEと患者死亡率の関連、因果関係は不明だった
広島大学は9月30日、人工呼吸器を使用している重症患者の容態悪化のサイン(人工呼吸器関連イベント:VAE)が見られると、その後の死亡率が約2倍高まることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科の志馬伸朗教授をはじめとする国内多施設共同研究グループによるもの。研究成果は、「Intensive Care Medicine」に掲載されている。

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VAEとは、2013年に米国疾病予防管理センター(CDC)/全米医療安全ネットワーク(NHSN)が導入した新たな医療の質監視システム。具体的には、患者の容態が悪化したときに起きる人工呼吸器の変化をまとめた指標である。人工呼吸器は、吸入させる酸素の量や、呼吸を助けるための圧の強さといった、患者ごとの設定の数値を常に記録している。これらの設定値の変化は、患者の容態が悪化したことを間接的に示すことになる。よって、医師の判断ではなく、より客観的に患者の容態を判定できる指標として期待されていた。
これまでの研究で、VAEは人工呼吸器装着患者の死亡率と関係するといわれていた。しかし、VAEが発症したから死亡率が上がったのか、そもそも死亡率が高かったからVAEが発症したのかわからなかった。そのため、死亡率の差異はその時点における患者の重症度の差に起因する可能性が指摘されていた。
そこで今回の研究では、VAEの発生と重症度変化が死亡率に及ぼす影響をより適切に調整する統計モデルを使用することで、VAEと死亡率との関連性をより正確に評価した。
VAE発症により死亡率は約2倍上昇、集中治療室・病院滞在期間も延長
具体的には、日本全国のVAE共同研究に参画した18の集中治療室で1,094人の対象患者を調査した。そのうち、106例のVAE(9.7%)が確認された。VAEが起こった人は、起こらなかった人に比べて死亡率が約2倍高いことがわかった。人工呼吸1,000日当たりの発生率は10.0であった。VAEは30日間の病院死亡率およびICU死亡率の有意な上昇(HR2.00;95% CI 1.23–3.26およびHR 1.92; 95% CI 1.03–3.57)、ならびに入院日数およびICU滞在期間の延長(HR0.72 95% CI 0.54–0.97およびHR0.47;95% CI 0.23–0.96)と有意に関連していた。VAE関連の集団寄与死亡割合は、院内死亡で8.8%、ICU死亡で8.2%であった。これらの結果から、重症度を時間依存性交絡因子として調整した上で、VAEが死亡リスクの増大と関連していることが証明された。
「人工呼吸関連肺炎の可能性」が死亡率と強い関連
また、VAEのサブタイプの中では特にPVAP(人工呼吸関連肺炎の可能性)が、死亡と有意に関連していた。
VAEの普及に向け、予防法の解明に期待
今回の研究で、VAEと死亡率の関連性が明確になった。今後は、人工呼吸器装着患者の容態を客観的に判定できる指標としてのVAEの普及に向けて、VAEの予防法を解明する研究の実施が期待される、と研究グループは述べている。
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