動物実験での頭蓋骨除去法は脳へのリスクが高く、成功率と安全性に限界があった
新潟大学は8月26日、生きている動物に安全に適用できる頭蓋骨透明化技術「シースルー法」を開発したと発表した。この研究は、同大脳研究所システム脳病態学分野の劉歆儀助教と田井中一貴教授、細胞病態学分野の内ヶ島基政准教授と三國貴康教授、ならびに理化学研究所脳神経科学研究センターの村山正宜チームディレクターらによる研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
行動や疾患に伴い、脳内では何が起きているかという根源的な問いに迫るため、世界中の研究者が生きている動物の脳を顕微鏡で観察しようと試みている。しかし、脳は不透明な頭蓋骨に囲まれており、観察は容易ではない。従来は、頭蓋骨を除去して透明なガラスを埋め込むことで脳内の観察が行われてきたが、この方法は脳に物理的なダメージを与えるリスクが高く、頭蓋骨の除去は脳圧の変動や炎症反応を引き起こしやすく、生理的とはいえない状態での観察につながる。また、手術には高度な技術と熟練を要し、成功率と安全性に限界がある。頭蓋骨を安全かつ簡便に透明化できればこれらの問題は一挙に解決するが、頭蓋骨を高度に透明化でき、かつ生きている動物に安全に適用できる組織透明化技術はこれまでなかった。
1時間以内にマウスの頭蓋骨を95%以上の高効率で透明化
今回の研究では、1,600種類を超える化合物を理論的・実験的にスクリーニングすることで、生きている動物に安全に適用できる頭蓋骨透明化技術「シースルー法」の開発に成功した。シースルー法は、従来法を大きく上回る透明化効率および生体適合性を併せ持つ試薬を頭蓋骨に塗布するだけで適用できる極めてシンプルな手法であり、1時間以内にマウスの頭蓋骨を95%以上の高効率で透明化できる。この手法は、観察したいときだけ頭蓋骨を透明にし、観察後には元の状態に復元できる「可逆性」を特徴としている。実際、シースルー法は生きているマウスに簡便かつ安全に適用でき、脳内の細胞の形態・活動、さらには分子の動態をマイクロメートルレベルの精度で観察できることを示した。さらに、大脳を覆う頭蓋骨の大部分を透明化して約3,000個の神経細胞の活動をミリ秒単位で観察することで、脳内の神経ネットワークの動態を大規模かつ詳細に観察することに成功した。
脳イメージング研究の普及と発展に期待
今回開発されたシースルー法により、観察したいタイミングで、誰でも簡単に、安全かつ高精度にマウスの脳内をライブイメージングできるようになった。ミクロからマクロのレベルまで、脳内をあるがままの状態でリアルタイムに観察できるようになるため、さまざまな行動や病態における脳内情報処理の理解が飛躍的に進むことが期待される。
「従来の頭蓋骨除去法と対照的に、脳圧の変化や脳脊髄液の漏出、脳の炎症やダメージのリスクを大幅に抑えられるので、より生理的で「あるがままの」状態で脳を観察できるようになる。さらに、従来の方法と比べて、脳の広い範囲を観察しやすくなるので、脳内ネットワークの動態の理解が進むことが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・新潟大学脳研究所 研究成果・実績


