C-CAT、がん遺伝子パネル検査結果を活用した診療支援とデータベース構築担う
国立がん研究センターは5月8日、がん遺伝子パネル検査を受けた患者の同意に基づいて収集された臨床情報と遺伝子変異の情報をデータベースとして構築しその利活用を促す基盤を担うがんゲノム情報管理センター(略称:C-CAT)において、登録された患者の総数が10万例を超えたと発表した。

画像はリリースより
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2019年6月よりがん遺伝子パネル検査が保険診療で用いられるようになり、がん細胞のゲノムを調べてどの遺伝子に変異が起こっているのかを知り、その変異に対応した治療法を選択するがんゲノム医療が行われている。C-CATでは、それぞれの患者の検査結果に対して、遺伝子変異の意義や遺伝子変異にマッチする臨床試験の情報などを記載した「C-CAT調査結果」の作成を行っている。作成されたC-CAT調査結果は、それぞれの患者が受診している医療機関に提供することで、患者の治療方針の決定に用いられている。またC-CATでは、患者の同意に基づいて、がん遺伝子パネル検査で検出された遺伝子変異の情報や臨床情報を収集している。これらの情報は、情報利活用審査会による審査・許諾のもと、アカデミアや企業に共有され、学術研究や医薬品などの開発に役立てられている。
2025年3月末で登録数は10万超、難治性がんや希少がんが多い
現在、C-CATには毎月2,000例、年間2万例以上の患者のがん遺伝子パネル検査の結果と臨床情報が集積され、それぞれの患者に対するC-CAT調査結果が提供されている。2025年3月末(令和6年度)時点で、C-CATに登録された患者の総数が10万123例となり、10万例を超える登録数となった。
登録された患者の特徴として、難治性の高い膵臓がんやまれな腫瘍である軟部組織、中枢神経系/脳の腫瘍などが多く含まれる。これは、保険診療でのがん遺伝子パネル検査が、標準治療終了後(終了見込みを含む)の患者、標準治療の乏しい希少がんの患者に対して行われていることと合致する。
抗がん剤の使用状況や効果の把握も可能、治療選択の参考となる貴重な情報源
C-CATに集約された情報は、日本のがんゲノム医療のリアルな姿を表すものであり、がん診療の現場での治療選択の参考となるものだ。また、C-CATの情報を集計することで、それぞれのがんではどのような抗がん剤が使われ、その治療効果や副作用はどうであるか、また、経時的に使用される抗がん剤の種類がどう変動しているかなどを知ることができる。これらは、日本のがんゲノム医療を今後よりよくしていくための貴重な情報となる。
99%以上が情報の二次利用に同意、学術研究や医薬品開発にも利用
C-CATには、がん遺伝子パネル検査で検出された遺伝子変異の情報、検査前後に受けられた薬物治療の情報(薬物名、治療期間、治療効果)などの臨床情報が、患者の同意のもと集約されている。そして、99%以上の患者が、提供した情報の二次利用に同意している。その結果、C-CATには世界に類を見ない利活用可能なデータベースが構築されている。現在、C-CATに集約された遺伝子変異の情報や臨床情報は、厳正な審査のもと、アカデミアや企業に共有され、学術研究や医薬品などの開発に役立てられている。
C-CATに集約されたデータは、日本で行われているがんゲノム医療の実情を表している。例えば、遺伝子変異の数が多いがんの患者では、がん遺伝子パネル検査後には、免疫チェックポイント阻害薬が主に選択されているなど、医療現場における治療選択の実態を知ることができる。また、がん遺伝子パネル検査後に行われる遺伝子変異にマッチした治療は、標準治療だけでなく、治験や患者申出療養を介して行われていることがわかる。
13社の製薬企業が臨床試験立案や薬事申請に活用
C-CATに集積されたこのような日本人がん患者のリアルワールドデータを用いて、これまで40報を超える学術論文が公表され、日本人のがんの特徴が明らかになってきている。また、製薬企業13社が、C-CATのデータを、臨床試験の立案など、医薬品の開発に利用している。昨今では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の薬事申請にC-CATデータが用いられる例も出てきており、医薬品の実装にもC-CATデータが貢献している。
日本人のがんの特徴やアンメットニーズ理解、ドラッグ・ラグ解消につながると期待
日本のがんゲノム医療体制は国民皆保険制度のもとに成り立っており、持続的ながんゲノム医療の提供やデータの集約が実現されている。これは、患者、医療機関、検査企業、政府など、多くの関係者の多大な協力・支援のもと成り立っている。現在、米国などにおいてもがん遺伝子パネル検査のデータ集積数が20万例を超えるなど、がんゲノム医療のリアルワールドデータの収集が世界で盛んに行われている。「創薬を担う製薬会社やシーズを生み出すアカデミアにC-CATのデータが活用されることで、日本人のがんの特徴やアンメットニーズが理解され、日本国内で多くの臨床試験・治験が行われ、その結果、より多くの患者に有効な治療法が届くこと、ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスが解消されていくことに期待する」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース