高齢者はUDIリスクと関連も、具体的なリスク因子は不明
東京科学大学は5月7日、高齢者における認知機能低下および身体機能低下が、予期せぬ透析開始(Unplanned Dialysis Initiation:UDI)に与える影響を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医歯学総合研究科腎臓内科学分野の萬代新太郎准教授(テニュアトラック)、中野雄太非常勤講師、内田信一教授、医療政策情報学分野の伏見清秀教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International Reports」に掲載されている。

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慢性腎臓病(CKD)は、日本国内で2000万人(成人の5人に1人、高齢者では3人に1人)、世界では8億5,000万人が抱える疾患とされる。腎臓は、老廃物の排泄にとどまらず、体内の電解質やミネラルの調整、血圧の制御、赤血球をつくるホルモンの産生、骨の強化など、生命と健康の維持において多様な役割を担っている。こうした腎臓の機能は、老化、生活習慣病、薬剤の影響など、さまざまな要因により、しばしば不可逆的に低下する。そして、内服薬や点滴では恒常性と生命の維持が困難な段階に至ると、透析が必要となる。CKDは、透析を必要とする段階に至る前から、全身の臓器に影響を及ぼすことが明らかになってきた。研究グループはこれまで、CKDに内在する複雑な病態(multi-morbidity/多併存症)を克服するための研究、CKDによる血管障害などの腎外臓器合併症(いわゆる臓器連関)、さらには腎性老化のメカニズムの解明とそれに基づく治療法の開発に取り組んできた。
慢性腎臓病の治療は日々進歩しており、集学的な介入によりその進行を抑制できるようになったことで、日本における透析導入年齢は高齢化している。世界的にも慢性腎臓病患者数や透析患者数は増加しており、高齢者における透析治療の重要性は一層高まっている。透析準備が不十分な場合には、UDIが発生し、死亡率の上昇や医療費の増加といった問題が報告されている。若年者と比べ、高齢者はUDIのリスクと関連することが知られていたが、その実態や具体的なリスク因子については十分に明らかにされていなかった。
身体・認知機能の低下がUDIリスクに与える影響、65歳以上透析導入患者約8万人対象に評価
そこで研究グループは、加齢に伴って特に影響を受けやすい身体機能および認知機能の低下に着目。それらがUDIリスクに与える影響について統合的に評価した。研究グループは、日本の診療報酬データベースであるDPC(Diagnosis Procedure Combination)データベースを用いて、65歳以上の透析導入患者7万9,850人を対象に、一般化線形モデルおよびロジスティック回帰分析を実施した。
身体機能著しく低下の患者、UDIリスク2.22倍増
身体機能とUDIリスクの関係については、身体機能が正常な患者と比較して、低下している患者(例:車いす使用や寝たきり状態)ではUDIリスクが有意に増加していた。特に、身体機能が著しく低下している患者では、UDIリスクが2.22倍に上昇していた。
重度認知機能低下の患者、UDIリスク1.26倍増
認知機能とUDIリスクの関係においても、認知機能が正常な患者と比較して、重度の認知機能低下を有する患者(例:日常生活に支援が必要な状態)ではUDIリスクが1.26倍に増加していた。
これらの因子を統合的に解析した結果、認知機能および身体機能のいずれも正常な場合のUDI発生確率は17%であったのに対し、両者が最も重度に低下している場合には、その確率が2倍の34%にまで増加すると推定された。
認知機能低下の患者、UDIによる医療費の増加傾向が顕著
医療費への影響については、UDIに関連する平均追加医療費が1回の入院あたり約78万円と見積もられた。特に、認知機能が低下している患者では、UDIによる医療費の増加傾向が顕著に見られた。
早期から専門医との連携・多職種による包括的なケアに期待
今回の研究により、高齢者における身体機能および認知機能の低下が、UDIリスクおよび医療費に与える影響が明らかになり、安全かつ計画的な透析準備の重要性が強調された。身体機能や認知機能が低下した高齢者におけるUDIリスクの高さを示した同研究は、透析導入の最適化に向けた取り組みに新たな礎を築く成果といえる。また、こうした高齢者に対しては、早期からの専門医との連携や多職種による包括的なケア、意思決定支援の枠組みを構築する必要性が示唆された。これにより、患者の生活の質の向上とともに、医療費の削減にもつながることが期待される。
高齢者の身体機能および認知機能を評価するための標準的なスクリーニング手法の開発、透析準備を最適化し円滑な意思決定を支援するための多職種連携によるケアモデルの構築、身体機能および認知機能低下を有する患者に対する早期介入プログラムの実施が今後の課題である、と研究グループは述べている。
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・東京科学大学 プレスリリース