毛髪は血液よりも侵襲性が低く扱いやすい
かずさDNA研究所は4月30日、約2mgの毛髪から甲状腺ホルモンを検出することに成功したと発表した。この研究は、同研究所と株式会社アデランス、伊藤病院の共同研究によるもの。研究成果は、「Biomolecules」にオンライン掲載されている。

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近年の健康志向の高まりとともに、健康の維持増進や病気の早期発見のために、体内の状態の指標となるマーカー分子を簡易的に検出する技術が注目されている。
研究グループは、1回の採取で過去の身体の状況までさかのぼることが可能なメモリー組織としての「毛髪」に着目し、この課題の解決に向けて取り組んできた。毛髪の特性としては、血液と比べて侵襲性や日差・日内変動の影響が少なく、常温での輸送や保管が可能であることが挙げられ、今後ヘアサロンや自宅など医療機関以外での展開が期待される。
毛髪中の甲状腺ホルモンを測定するシステムを構築
今回の研究では、20~40代の女性の罹患率が高いことで知られている「バセドウ病(Graves’ disease)」に着目し、毛髪を利用した新たな判定法の構築に取り組んだ。バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に作られるため、動悸・下痢・発汗過多・倦怠感やイライラなどの症状を呈するが、更年期などと症状が似ているため、発見が遅れて甲状腺の病気と気づかれない場合もある。
甲状腺ホルモンの遊離型(FT3、FT4)は、バセドウ病の血液検査で従来から利用されているが、毛髪に含まれている量は極微量のため、新たな高感度検出法の確立が不可欠だった。そこで同研究では、液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)を用いて、これらのホルモンを極微量で検出が可能な分析法の構築に取り組み、約2mg程度の毛髪(約10本)からの超高感度解析を実現した。
バセドウ病患者の毛髪で甲状腺ホルモン高値を確認
次に、この構築した分析法を用いて、毛髪中に含まれるFT3とFT4の値を調べた結果、コントロール群に比べてバセドウ病患者では、これらのホルモン値が有意に高いことが分かった。また、ROC解析で得られたAUC値から予測精度も高いことが明らかになった。さらに、毛髪中のこれらのホルモン値は、血液中の濃度と正の相関性が高く、血中の量的な状況が毛髪にも反映されている可能性が示唆された。
簡易かつ侵襲性の低い検査法で病気の早期発見に期待
今回の研究によって、毛髪で甲状腺ホルモン値の解析が可能になった。今後は、従来の医療機関での血液検査と一線を画した簡易的で侵襲性の低いスクリーニングシステムとして、同研究所発のベンチャー(Molefinecare)を通じて社会実装を目指すとしている。
「他の病気での応用も目指しており、ヘアサロンなど日常に近い場での潜在的な病気の超早期発見に繋げ、生活の質(QOL)の向上や健康寿命の延伸に貢献したい」と、研究グループは述べている。
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