都内の初産婦を妊娠~産後まで追跡、産後うつ軽減に必要な「頼れる人の数」を調査
東京都医学総合研究所は6月27日、初産妊婦を支える社会環境と産後のメンタルヘルスについての研究結果を発表した。この研究は、同研究所社会健康医学研究センターの新村順子主任研究員、山﨑修道副参事研究員、西田淳志センター長、東北大学大学院医学系研究科の中西三春准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Epidemiology and Psychiatric Sciences」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
産後うつは、母親自身のメンタルヘルスの問題にとどまらず、子どもの発達や親子関係、ひいては社会全体に及ぼす影響が大きく、公衆衛生上の重要課題とされている。国際的な研究では、初めて妊娠した妊婦(初産婦)は、妊娠出産を過去に経験した妊婦(経産婦)と比べて、産後うつになりやすく、特に若い初産婦では、社会的孤立や経済的な困難に直面したり、予期せず妊娠したりすることも多いため、産後うつのリスクがさらに高いことが指摘されている。一方で、妊娠中に信頼できる人の数が多いと、産後のメンタルヘルスが改善されることが明らかになりつつある。しかし、具体的に何人頼れる人がいれば、産後うつ症状の軽減に十分なのかは明らかになっていない。
そこで今回の研究では、東京都内在住の初産婦を、妊娠時から産後まで追跡調査し、産後うつ症状を軽減するために必要な頼れる人の数を調べた。東京都内4自治体在住の429人を対象とした「MINTコホート」では、参加者が妊娠し、妊娠届を提出した妊娠早期に調査に参加し、その後追跡調査を継続している。同研究では、MINTコホートの妊娠早期と産後1か月時点のデータを用いた。頼れる人の数と産後のうつ症状は、妊婦自身が回答した。
頼れる人4人以上で産後うつ症状軽減、25歳以下の若年初産婦は6人以上で軽減
まず、初産婦全員のデータについて、頼れる人の数と産後うつ症状の関係を調べた。その際、セグメント回帰分析を用いて、両者の関係が大きく変わるポイント(変曲点)を統計的に明らかにした。その結果、頼れる人の数が3人までは、その人数が増えても産後うつ症状は大きく軽減しなかったが、4人以上になると、人数が増えるごとに産後うつ症状が軽減していくことがわかった。一方、25歳以下の若年初産婦に限ったデータで分析をすると、頼れる人の数が5人までは、産後うつ症状は大きく軽減せず、6人以上になったところで症状が軽減していた。
頼れる人6人以上に達する若年初産婦は2割程度、支援不足が浮き彫りに
今回の研究から、初産婦全体では、妊娠中に頼れる人の数が4人以上になると、産後うつ症状が大きく軽減されることがわかった。妊娠中の社会的なつながりや支えが一定の量を超えることで、産後うつ症状を予防できる可能性が示唆された。さらに、25歳以下の若年初産婦においては、その閾値が6人近くまで上昇し、より多くの支援がなければメンタルヘルスを守ることが難しい可能性があることが示された。しかし実際にこの水準に達していた若年妊婦は2割程度にとどまっており、支援の不足と格差の存在が浮き彫りとなっている。これらの知見は、妊産婦支援の仕組みや体制を設計する際の具体的な基準(支援者数の目安)を提供するものであり、特に支援が行き届きにくい若年層に向けて、重点的・集中的に支援資源を配置する必要性を強く示唆している。今後は、同研究の成果を活かしながら、妊娠期から切れ目なく支援を届ける地域モデルの開発や、若年妊婦に対するアウトリーチ強化、支援ネットワークの形成支援など、支援者数の「質と量」の両面から包括的に支える仕組みの構築が期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京都医学総合研究所 プレスリリース


