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腹部大動脈瘤、動脈硬化から進展するメカニズムを解明-神戸大ほか

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2025年05月12日 AM09:10

動脈硬化が腹部大動脈の破壊・瘤の拡大を誘発するメカニズムは不明だった

神戸大学は4月25日、腹部大動脈瘤の新たな形成メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科・内科学講座循環器内科学分野の江本拓央医学研究員、平田健一名誉教授、心臓血管外科の岡田健次教授、大学院科学技術イノベーション研究科・先端医療学分野の山下智也教授らの研究グループと、McMaster UniversityのDanya Thayaparan研究員、Martin Stampfli教授、University of Toronto・UHN’s Peter Munk Cardiac CentreのAniqa Khan研究員、Clinton Robbins教授との国際共同研究によるもの。研究成果は、「Nature Immunology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

腹部大動脈瘤は、無症状で瘤径が拡大し、破裂すると半数以上の人が命を落とす疾患。現在のところ、外科的な人工血管置換術もしくは腹部大動脈ステントグラフト内挿術しか選択肢がなく、5cm以下の大動脈瘤については経過観察となる。喫煙者であれば禁煙、高血圧患者であれば降圧療法が行われるが、いずれも十分ではなく、瘤径の拡大を確実に抑制できる内科的治療法は存在しない。

腹部大動脈瘤は、動脈硬化が原因となることが示唆されている。しかし、動脈硬化病変がどのようにして大動脈壁の破壊、瘤の拡大を誘発するのかについては、不明な点が多かった。

より臨床に近いモデルマウスを確立、腹部大動脈瘤と動脈硬化の因果関係を証明

今回の研究では、腹部大動脈瘤患者の90%が喫煙者であることに着目し、動脈硬化モデルマウスであるアポリポプロテインE欠損(Apoe-/-)マウスに対し、高脂肪食負荷に加え、たばこの煙に1日2回暴露した。その結果、腹部に動脈硬化が形成され、より臨床に近い形のモデルマウスを確立することができた。

このモデルマウスでは、動脈硬化病変部と一致して瘤が形成されたことから、動脈硬化が直接的に瘤の原因になっていることが証明された。

病態形成に重要なマクロファージを同定、血管内皮障害も関与

動脈硬化病変部では、マクロファージの集積が見られた。そこで、マクロファージ集積の意義を調べるために、マクロファージの維持増殖に必須のCSF-1をブロックしたところ、動脈瘤形成が抑制された。このことから、マクロファージが大動脈瘤の形成に深く関わることが示された。

シングルセルRNAシークエンス解析技術を用いて、大動脈瘤の免疫細胞を詳しく解析すると、単球が浸潤し、特に脂質を取り込んで泡沫化した「+」が集積していることがわかった。一方、TREM2+マクロファージがノックアウトされた骨髄細胞をモデルマウスに移植すると、大動脈瘤形成が抑制された。これらの結果から、TREM2+マクロファージが病態形成に重要であることが明らかになった。

さらに、たばこの煙に曝露したマウスでは、一酸化窒素(NO)を産生する正常な内皮細胞が減少していることがわかった。NO産生酵素を阻害するL-NAMEや、NO産生酵素のノックアウトによって瘤形成が悪化することから、血管内皮障害が単球の浸潤を促進することが示唆された。

ヒトでもTREM2+マクロファージを確認、新たな治療標的となる可能性

ヒトのサンプルについて、大動脈瘤の中枢断端と中心部をシングルセルRNAシークエンス解析で比較したところ、中心部で単球が浸潤していること、マウスと同様にTREM2+マクロファージが存在することが確認された。また、ヒトとマウスのデータを同じ座標を用いて解析する手法を用いても、同じような細胞集団がいることが示された。これらの結果から、ヒトでもTREM2+マクロファージが病態形成に関与している可能性が明らかになった。

「今回の発見は、大動脈瘤の研究において重要な知見。今後、単球の浸潤やTREM2+マクロファージの集積を制御する新たな薬物治療の開発が期待される」と、研究グループは述べている。

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