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慢性心不全、酸化型グルタチオンで予後改善の可能性-生理研ほか

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2025年01月21日 AM09:20

抗酸化能ないGSSG、心機能に及ぼす影響を心不全モデルマウスで検討

生理学研究所は1月10日、酸化型グルタチオン(GSSG)が慢性心不全の予後改善に有効であることを、心不全モデルマウスを用いて明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所/生命創成探究センター(ExCELLS)の西村明幸特任准教授と西田基宏教授(九州大学大学院薬学研究院と兼任)ら、、筑波大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

現在の日本では、人口減少が進む一方で、心不全患者数は増加し続けている。2030年には130万人に達すると予想されており、「心不全パンデミック」の到来が危惧されている。心不全の5年生存率はおよそ50%。これは全がんの生存率よりも悪く、新しいコンセプトに基づいた治療薬の開発が求められている。

これまでに、活性酸素(酸化ストレス)と心不全重症度との相関などから、過剰な酸化ストレスが、心不全を増悪する要因の1つと考えられている。そこで慢性心不全患者の予後を改善する試みとして、活性酸素などの除去などを行う抗酸化物質として働くグルタチオンを始めとするさまざまな抗酸化療法が検討されてきた。しかし、その多くは失敗に終わっており、レドックス(酸化-還元)を標的とした創薬研究には従来の概念からのパラダイムシフトが必要とされている。

グルタチオンは抗酸化能を持つ還元型グルタチオン(GSH)と抗酸化能を持たない酸化型グルタチオン(GSSG)の2つの構造をもっており、通常、生体内では9割以上がGSHとして存在している。これまでは主に抗酸化能を持つGSHが注目されてきたが、GSSGは機能面ではあまり注目されていなかった。そこで研究グループは今回、GSSGに着目。心不全モデルマウスの心機能にGSSGが及ぼす影響を検討した。

心不全モデルマウスにGSSG投与で、心機能の維持を確認

心不全モデルマウスにGSHを投与すると、時間経過に伴って心機能が下がり続ける一方、GSSGを投与すると、心機能が維持されることが明らかとなった。この結果から、GSSGが心不全の予後改善に重要であることが明らかになった。

GSSGはミトコンドリア断片化関与のDrp1「グルタチオン化」により異常活性化を抑制

マウス心臓組織を詳しく解析したところ、ミトコンドリアの機能に変化が見られることがわかった。通常、慢性心不全モデルマウスの心臓では、エネルギー産生器官であるミトコンドリアが小さく断片化しており、エネルギー産生能が低下している。一方で、GSSGを投与した心不全モデルマウスの心臓では、ミトコンドリアの形およびエネルギー産生能が回復していることが明らかとなった。そこでミトコンドリアの断片化に関わるDrp1と呼ばれるタンパク質の活性を調べたところ、GSSG投与によってDrp1の異常活性化が抑制されていることを見出した。

さらに詳細にGSSGがDrp1の活性化を抑えるメカニズムについて検討を行った。その結果、GSSGはDrp1の活性化に重要なシステイン残基に結合するグルタチオン化によって、Drp1の活性化を抑えていることがわかった。一方、GSHはDrp1のグルタチオン化を引き起こすことができないことや、グルタチオン化が阻害された遺伝子改変マウスではGSSGによる心保護効果が見られなかったことを見出した。

GSSG、ミトコンドリア機能改善による慢性心不全の予後改善・治療薬開発に期待

今回の研究により、Drp1のグルタチオン化が心保護効果に重要であることが明らかになった。同研究は超硫黄分子の代謝に着目したレドックス創薬の新概念を提唱するもので、今後、心不全やミトコンドリア関連疾患に対する治療薬開発へつながることが期待される。

今回、抗酸化能を持たないGSSGが心臓のミトコンドリア機能を改善することで慢性心不全の予後を改善することを明らかにした。ミトコンドリアは、さまざまな疾患で機能低下が報告されている。今後、GSSGによるミトコンドリア保護効果についてより詳細な研究を進めていくことで、心不全やミトコンドリア関連疾患に対する治療薬開発への貢献が期待される、と研究グループは述べている。

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