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頭蓋底脳腫瘍、内視鏡を用いた新たな低侵襲開頭手術法を確立-大阪公立大

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2024年04月11日 AM09:00

錐体先端部病変の外科的治療法、専門家間で意見分かれる

大阪公立大学は4月9日、脳深部に発生する錐体先端部病変に対する外科的治療において、内視鏡を用いた新たな低侵襲手術法「内視鏡下前経錐体到達法」を開発し、腫瘍切除率98.5%、手術後の日常生活活動能力の改善率30%、維持率70%という良好な治療成績を収めることに成功したと発表した。この研究は、同大医学研究科脳神経外科学の後藤剛夫教授、森迫拓貴講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neurosurgery」のオンライン速報版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

頭蓋底部の病変は、手術時に脳や神経、血管を傷つける危険が伴うため、術後に合併症発生のリスクがある。中でも、錐体先端部の病変は、動眼神経、滑車神経、三叉神経、外転神経、顔面神経、聴神経などの脳神経を巻き込んでいる可能性があること、脳底動脈など重要な血管と近接していること、脳幹を圧迫しているなどの理由から、全ての脳外科手術の中で最も難しい腫瘍の一つである。錐体先端部に発生した症候性の病変や脳幹の圧排を伴う病変に対する基本的な治療は外科的手術による摘出で、良性病変に対してはさまざまな治療が行われているが、より有効的な治療方法への意見は専門家間でも一致しないのが現状だ。

内視鏡下に小開頭前経錐体到達法を用いる手術法を検討

研究グループは、脳神経麻痺、片麻痺などの合併症を起こさず、可能な限り腫瘍をたくさん摘出することを治療方針に掲げてきた。脳底部の頭蓋骨を削除することで脳の挙上を最小限にする経錐体法(耳の奥にある錐体骨を削除する方法)や、錐体先端部の病変に対する顕微鏡を用いた前経錐体到達法を早くから導入し、脳神経外科の世界に影響を及ぼしてきた。また、近年の高精細な内視鏡システムの普及や周辺機器・器具の開発向上に伴い、小さな皮膚切開かつ開頭範囲で、頭蓋内腫瘍を摘出する低侵襲な手術方法が発展してきた。そこで今回は、臨床解剖を念頭に置きながら、内視鏡下に小開頭前経錐体到達法を用いることで、煩雑な工程を改良し、低侵襲かつ安全に錐体先端部病変を摘出する手術法を検討した。

同大病院で10例に実施、耳前方皮膚を約7cm切開し、直径4cm程度の側頭開頭

対象症例は、2022年~2023年に同大医学部附属病院で内視鏡下小開頭前経錐体到達法による腫瘍切除を行った錐体先端部病変10例。腫瘍摘出度、合併症、神経機能、手術時間、出血量などについて、2014年~2021年に従来法(顕微鏡下前経錐体到達法)を用いて摘出した錐体先端部病変に対する治療成績と比較した。内視鏡下小開頭前経錐体到達法では、耳前方の皮膚を約7cm切開して直径4cm程度の小さな側頭開頭を行い、内視鏡下での操作によって脳幹や動脈、周囲の脳神経から腫瘍を安全に切除する。

従来法と比べて手術時間短縮、腫瘍切除率、日常生活活動能力は同等

同手術法による治療群と従来法による治療群の比較では、腫瘍切除率および術前後の日常生活活動能力に有意差はなかったが、手術時間の短縮および出血量が減少した。特に、平均腫瘍切除率は98.5%、患者の日常生活活動能力の悪化率は0%であり、従来法と同等の切除率でより患者の負担を軽減した治療が可能な点は大きく評価すべきだと考えられる。また、内視鏡を用いることで小さな皮膚切開と開頭のみで従来の顕微鏡手術と同様に病変が観察できるため、多くの神経や動脈、脳幹などの重要な構造物を損傷することなく腫瘍を摘出でき、高い腫瘍摘出度の維持や神経機能の温存を実現した。

従来の顕微鏡下前経錐体到達法の煩雑な工程を改良、国内外での普及に期待

錐体先端部病変の外科的治療において、世界標準となりうる新たな低侵襲な手術方法を提案しまし、錐体先端部病変に対する低侵襲な内視鏡を用いた前経錐体到達法が患者機能を改善させかつ十分な腫瘍切除を可能にする有用な到達法であることを示した最初の報告となる。「錐体先端部の病変に対しては顕微鏡を用いた前経錐体到達法が用いられるが、錐体骨削除を含めた開頭手技は煩雑で時間を要する工程だった。この到達法が国内外で普及することで、多くの患者に低侵襲で安全な治療ができることを期待している」と、研究グループは述べている。

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