医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 皮膚炎の紅斑パターンから効果的な治療法を予測する数理モデル構築-広島大

皮膚炎の紅斑パターンから効果的な治療法を予測する数理モデル構築-広島大

読了時間:約 2分51秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年01月25日 AM09:30

皮膚炎の多様な紅斑パターン、どのように生じるのかは未解明

広島大学は1月19日、皮膚表面に現れる炎症パターン(模様)に注目した数理モデルに基づき、時間とともに拡大する炎症を消失する健康な状態へと導く仕組みを予測したと発表した。この研究は、同大大学院統合生命科学研究科の藤本仰一教授(大阪大学招へい教授)、須藤麻希研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS Computational Biology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

皮膚の炎症は有害な刺激を排除して組織を健康な状態に保つ。しかし過剰な炎症は慢性化して周囲の健康な組織を傷つける。炎症が起こると、皮膚内部の血管が拡張して、皮膚表面に赤み()が現れる。健康な皮膚では、時間が経つにつれて紅斑が薄くなって消失する。これに対して多くの病的な皮膚炎では、円状や輪状、らせん状など、実にさまざまな模様の紅斑が皮膚表面に現れて、日に日に拡大する。興味深いことに、これらの紅斑パターンは、同じ病気でも患者ごとに異なる場合や、異なる病気で共通する場合があるが、多様なパターンの炎症が示す拡大あるいは消失という特徴の違いが、どのように生まれるのかはわかっていない。

紅斑は主に、皮膚内部で産生される炎症促進因子と炎症抑制因子によって駆動される。炎症促進因子は皮膚内部の血管を拡張して皮膚上に紅斑を生じさせる一方で、炎症抑制因子は炎症を抑制する。これまでに、特定の病気で観察される複数のパターンは、炎症促進因子の生化学反応と皮膚内部の拡散から生まれることがわかっていた。しかし、複数の病気に共通する炎症パターンが現れる仕組みと炎症抑制因子の役割はいまだ明らかになっていなかった。病的な拡大パターンを健康な消失パターンに戻すにはどうすればよいのだろうか。

11の炎症性皮膚疾患の論文を調査、共通の紅斑パターン5つを確認

研究グループは、11の炎症性皮膚疾患(・水泡性天疱瘡・・シェーグレン症候群・スウィート病・貨幣状皮膚炎・匍行性迂回状紅斑)の132報の論文を調査した結果、これらの疾患が、円、輪、多環(多数の環)、円弧(円周の一部分)、らせん、といった5種類の共通した紅斑パターンを示すことを確認した。

数理モデル構築、紅斑の拡大パターンや消失パターンの出現条件を明らかに

そこで研究グループは、さまざまな疾患を超えて共通する紅斑パターンの制御機構が存在するのではないかと考え、この仕組みを探索するために数理モデルを構築した。数理モデルには、生物実験の知見に基づき、炎症促進因子が自身の生成を促進する正のフィードバックと、炎症促進因子と炎症抑制因子の間の負のフィードバック、さらには、これら因子が皮膚内部で拡散する効果を導入した。数理モデルの計算機シミュレーションの結果、健康な皮膚で現れる消失パターンに加えて、上記の疾患で報告されている主要な5種類の拡大パターンが出現する条件を明らかにした。

炎症拡大から消失への移行、促進/抑制因子の産生バランスが関連

さらに、炎症の病的な拡大を健康な消失へと導く複数のパラメータ(生化学反応の速度定数)を特定した。5種類それぞれの拡大パターンごとに有効な治療法を予測するため、各パターンが現れるパラメータ値の条件を網羅的に探索した。その結果、消失パターンと比べて、円状のパターンは抑制因子の産生が少ない場合、輪状のパターンは促進因子の産生が多い場合に現れた。らせん・多環・円弧のパターンは、消失パターンよりも抑制因子の産生がやや少ないか、促進因子の産生がやや多い場合に現れた。これらの結果より、促進因子や抑制因子の産生のバランスに応じて、拡大パターンが消失パターンへと移りかわることが予測された。

紅斑パターンから個別の治療法や予防法の提案につながる可能性

これら一連の発見は、多様な皮膚炎症パターンを消失へと導く仕組みとその治療法の理解を進める。つまり、円状のパターンは抑制因子の産生を増やす治療、輪状のパターンは促進因子の産生を減らす治療、らせん・多環・円弧のパターンはその両方の治療が有効であると考えられる。さらに、健康な皮膚の消失パターンと病的な皮膚の拡大パターンの違いを生む条件により、紅斑パターンから疾患の重症度やリスクを推定することが可能となり、患者の病態を個別に考慮した治療法・予防法の提案が期待される。「数理モデルは、皮膚を傷つけることなく非侵襲的に紅斑パターンから制御機構を予測でき、さまざまな炎症性皮膚疾患の予防・治療への応用が期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか