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アレキサンダー病、病態進行抑制にミクログリアの関与を発見-山梨大ほか

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2023年11月15日 AM10:00

希少疾患アレキサンダー病の原因、アストロサイト機能異常が推定されるも詳細は不明

山梨大学は11月13日、希少な難治性神経変性疾患である「」の病態保護作用に関与する細胞を発見したと発表した。この研究は、同大大学院総合研究部医学域基礎医学系薬理学講座・山梨GLIAセンターの小泉修一教授、齋藤光象助教、自然科学研究機構生理学研究所の鍋倉淳一所長、堀内浩助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「BRAIN」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アレキサンダー病は、非常にまれな難治性の神経変性疾患で、ほぼすべての患者において、アストロサイト特異的遺伝子であるGFAP遺伝子に変異が認められる。この病気は新生児から高齢者まで幅広い年齢で発症するが、新生児や乳児期に発症する患者は、けいれん、頭囲拡大、精神運動発達の遅れが出現し、幼少期に死亡することもあり、生命予後は不良である。成人期に発症する患者は、新生児や乳児期に発症する患者と比べると生命予後は良好だが、四肢の運動障害、嚥下障害、排尿困難など日常生活に大きな支障を来し機能予後は不良なことが多い。

アストロサイトは、グリア細胞のひとつであり、中枢神経系の栄養代謝、シナプス可塑性、細胞間の情報伝達機能など多様な役割を果たしている。これまでの基礎医学研究や臨床研究から、アレキサンダー病の発症にはアストロサイトの機能異常が関係することが推定されている。また、病気の発症年齢、重症度、臨床経過には大きな多様性があることが知られている。同一のGFAP変異であっても、ほぼ無症状に近い軽症例の報告もあることから、、あるいはアストロサイト以外の要因が病状に影響する可能性が指摘されているが、その他の要因についてはよくわかっていなかった。

さまざまな脳疾患とも関係するミクログリアに着目

そこで研究グループは、もうひとつのグリア細胞のミクログリアに着目した。ミクログリアは中枢神経の免疫細胞として病原体・異物除去の役割を担っている。しかし、免疫細胞としての役割以外に、脳内環境変化をモニターし、神経細胞の活動や神経ネットワークの構築を制御するなど、脳の中核機能を調節維持する細胞として近年非常に注目されている。さらにミクログリアはさまざまな脳疾患と関係することがわかってきた。それぞれの疾患状況においてミクログリアは、病的状態を抑制したり、逆に悪化させたり、あるいは直接病気の原因となったりすることもある。これまでアレキサンダー病の病態におけるミクログリアの役割については詳しく調べられてはいなかった。

疾患モデルマウス、異常アストロサイトに突起が過剰増加した活性化ミクログリアが集積

研究グループはアレキサンダー病のモデル動物実験において、ミクログリア機能解析および1細胞RNAシーケンス解析による網羅的遺伝子発現解析による検証を進めた。

アレキサンダー病の疾患モデルマウスとして、乳児期に発症する患者で比較的多いR239H変異(239番目のアルギニンがヒスチジンに置き換わった変異)を有するヒトGFAP遺伝子のトランスジェニックマウスを用いた。アレキサンダー病モデルマウスの脳では、アストロサイトの形態が特徴的に変化していた。このような異常アストロサイトが密集している部位には、ミクログリアも集積し、これらのミクログリアは過剰に突起が増加した形態変化を示した。このようなミクログリアは、異常アストロサイトのシグナルを感知して強く応答し、活性化状態にあると考えられた。

この活性化したミクログリアの機能変化を調べるため、2光子励起レーザー顕微鏡によるCa2+イメージングを行った。ミクログリアの細胞内Ca2+が変化すると蛍光を発するような遺伝子改変動物と交配させることによってミクログリアCa2+イメージング用のアレキサンダー病モデルを作成し、観察したところ、ミクログリアが活発なCa2+シグナルを発生させていることがわかった。さらに行った実験により、活性化Ca2+シグナルは、ミクログリアに特異的に発現するP2Y12受容体を介して生じていることが明らかになった。

アストロサイトNTPDase2が発現低下、ミクログリアP2Y12受容体がATP・ADPの濃度上昇を感知

この活性化Ca2+シグナルの分子メカニズムを明らかにするため、1細胞RNAシーケンス解析により、特定の脳部位(海馬)における全細胞の網羅的遺伝子発現解析を行った。アレキサンダー病モデルでは、ミクログリアのP2Y12受容体の発現量自体は増加していなかった。したがってCa2+シグナル増によるミクログリアの活性化には、この受容体のリガンド(刺激物質)であるATPおよびADPの細胞外濃度上昇が関係している可能性が考えられた。そこでATP放出やATPの分解、取り込みに関連する遺伝子の発現状態を調べたところ、アストロサイト特異的なATP分解酵素の遺伝子Entpd2(タンパク質名:NTPDase2)の発現が低下していることがわかった。つまり、アレキサンダー病の脳では、アストロサイトのNTPDase2発現が低下していることにより、ATPおよびADPが分解されずに高濃度で存在するようになる。ミクログリアは、これらを病態シグナルとしてP2Y12受容体によって感知し、Ca2+シグナル上昇、形態変化などの活性化状態を示すことが示唆された。

P2Y12受容体阻害薬クロピドグレル、アレキサンダー病モデルマウスの病態を増悪

アストロサイト異常によって細胞外ATP濃度が増加し、これをミクログリアが感知して活性化することがわかった。それではこの活性化したミクログリアはアレキサンダー病の病態に対してどのような役割を果たしているのか?この疑問を明らかにするため、アレキサンダー病モデルマウスにP2Y12受容体阻害薬であるクロピドグレルを投与し、疾患病態への影響を調べた。クロピドグレルは、海馬においてアレキサンダー病の病態マーカーであるローゼンタル線維を増加させ、さらに神経細胞障害を起こすこと、つまりアレキサンダー病の病態を増悪させることが明らかになった。クロピドグレルを野生型マウス(正常なマウス)に投与しても、このような変化は認められなかった。また分子生物学的手法(siRNAを使ったRNA干渉法)を用いて、P2Y12受容体遺伝子の発現を低下させた場合にも、上記クロピドグレルと同様、疾患の増悪作用が認められた。つまり、ミクログリアはP2Y12受容体によりアストロサイトの異常を感知して活性化した後、アレキサンダー病の病態進行の抑制に関与することが強く示唆された。

アレキサンダー病の進行抑制にミクログリアの関与を示す世界初の成果

今回の研究の結果は、世界で初めてミクログリアが一次性アストロサイト疾患「アレキサンダー病」の進行抑制に関与することを実験的に示したものである。今後さらに、この疾患の病態解明が進むことや今回の知見が臨床的研究にも活用されることなどにより、研究の意義がさらに高まるものと想定される。

これまで、アレキンサンダー病において根本的な治療法は確立されていなかったが、新しい治療標的としてミクログリアを見出すことができた。「今後、ミクログリアの機能を調節制御する、という新たな戦略による治療薬の開発が期待される」と、研究グループは述べている。

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