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多発性硬化症、再発しないために重要な分子メカニズムを解明-NCNPほか

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2023年10月12日 AM11:24

なぜ一部の患者は再発しないのか

(NCNP)は10月11日、(MS)のマウスモデルを用いて、自己免疫性脳炎(EAE)が再発を繰り返して慢性化するか再発しないかを決定する原因を探索し、EAEの誘導に使うペプチドと主要組織適合抗原クラスII分子(MHC class II)の結合安定性がきわめて重要な要因であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター神経研究所免疫研究部の林幼偉(りん・ようい)研究員、量子化学技術研究開発機構の櫻庭俊博士らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Autoimmunity」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

MSは、再発を繰り返しながら悪化していく難治性の自己免疫疾患であるが、発病時の病態は重症であっても、その後は再発しないケースもある。頻回の再発のために高度の障害を残すケースもあるなかで、なぜ一部の患者は再発しないのかという基本的な疑問について、これまで明らかではなかった。

EAEを誘導するペプチドの条件は?

EAEの症状や臨床経過は、誘導に用いるペプチドとマウス種類の組み合わせによって異なる。例えばB6マウスにMOG 35-55ペプチドを接種すると進行性で回復に乏しい麻痺症状のEAEが誘導される。一方、SJL/JマウスにPLP139-151ペプチドを接種すると、最初の麻痺症状は回復しても再発を繰り返す。

PLPがEAEを誘導することを最初に証明したのは、同センターの前身である国立武蔵療養所神経センターの田平武博士の研究グループであったが、米国で多数のペプチドライブラリーのスクリーニングによりPLP139-151のEAE誘導能が発見されたのに対し、田平研では酵素分解で得られたタンパク質断片を使ってPLP136-150がEAEを誘導することを報告した。両者はほとんど同じ配列のように見えたが、PLP136-150で誘導したEAEはまったく再発しないことが今回の研究グループで確認されていた。しかし、理由は不明確なままに時間が過ぎていた。

原因は、マウスの違いや誘導条件の違いではなく、ペプチド配列の微妙な違いにあるのだろうと考えられていた。ただ、PLP136-150とPLP139-151はT細胞抗原受容体(TCR)およびMHC class IIには同じアミノ酸を使って結合すると推定され、片方のペプチドだけが再発性のEAEを起こすことが理解できなかった。しかし再発性の病気を起こすペプチドと、一時的で再発しない病気を誘導するペプチドの研究は、自己免疫疾患の慢性化の理解に役立つだけでなく、ペプチドの免疫原性(免疫反応の誘導しやすさ)を理解する上でも興味深いことから、研究が続けられてきた。

PLP136-150/PLP139-151で誘導されるEAEの違いを検証

研究グループは、2種類のペプチドPLP136-150とPLP139-151で誘導されるEAEの違いを検討した。PLP136-150では、制御性T細胞を誘導するPLP136-150で誘導したEAEが回復したあと、もう一度PLPペプチドでEAEを誘導しようとしても決してEAEは起こらない。しかしPLP139-151で誘導したEAEの回復期には、PLPペプチド接種によって強いEAEが誘導された。PLP136-150で誘導されたEAEが再発しないことや、EAEの再誘導に抵抗性を示すことは、強力な免疫制御系が作用していることが示唆された。

そこで制御性T細胞()に着目して研究を進めた。PLP136-150でEAEを誘導してから、Tregを除去する作用のある抗CD25抗体を投与し、約1週間後にPLP136-150を接種したところ、今度はEAEがみごとに誘導された。この結果はPLP136-150で免疫すると、制御性T細胞が強力に誘導されることを示唆した。

PLP136-150は抗原特異的Tregを強く誘導

研究グループはさらにPLP136-150によってCD69とCD103を発現するTregが誘導されやすいこと、CD69+CD103+Tregには強力なEAE抑制活性のあることなどを確認した。そして、抗原特異的なTregを同定する技術・試薬(PLPペプチドを結合するMHC class II デキストラマー; PLP139-151/I-As dextramer)を米国の研究者(ネブラスカ大学Jay Reddy教授)から提供を受け、PLP139-151特異的T細胞の数を評価した。PLP136-150またはPLP139-151でEAEを誘導して約1か月後にリンパ節からリンパ球やリンパ芽球を分離して解析したところ、PLP136-150でEAEを誘導した場合にCD4+CD25+制御性T細胞中のPLP特異的T細胞の数が有意に増加しており、PLP136-150には抗原特異的なTregを誘導する能力が強いことがわかった。

次にPLP136-150とPLP139-151のペプチド量を10分の1に減量してEAEを誘導したところ、このsuboptimalな条件では、PLP136-150においてEAE誘導能が強いことがわかった。EAEを誘導する抗原特異的T細胞の誘導能においても、また抗原特異的Tregの誘導能においても、PLP136-150はPLP139-151よりも優れており、抗原特異的Tregの誘導によってEAEの再発がみられなくなることが推測された。

PLP136-150はMHC class IIと安定して結合

研究グループは、SJL/Jマウスの主要組織適合抗原クラスII分子(MHC class II)であるI-As分子とPLPペプチドの結合安定性に関する解析を実施した。分子動態とreplica exchange with solute tempering (REST)の数学的計量計算により、PLPペプチド/I-As分子複合体の溶液中における構造変化に関するシミュレーションを実施した。解析の結果、PLP136-150ペプチドはMHC class IIの溝(MHC groove)で安定したポジションを維持しているのに対して、PLP139-151は溝からしばしば飛び出す不安定なポジションにあることがわかった。またペプチドのN末端はMHC class IIの溝の外に飛び出した残基(flanking residues)であることが確認された。これにより、PLP136-150がI-Asに安定して結合しているメカニズムの詳細が解明された。

ペプチドとMHC class IIの結合安定性が重要

PLP136-150はSJLマウスのMHC class II分子であるI-Asに安定して結合することにより、免疫原性を強く発揮することがわかった。PLP136-150でSJLマウスを感作すると、脳炎惹起性の抗原特異的T細胞も強く誘導されるが、強い活性を有するCD69+CD103+CD25high+CD4+ Tregが優先的に誘導されることにより、EAE は再発しなくなり、EAEの再誘導も困難になると考えられる。逆にMHC class IIに安定して結合できないペプチドで自己免疫病が誘導されると、病気は慢性化して難治化すると考えられる。MHC class II分子に安定して結合するペプチドを合成するには、MHC class IIの溝に結合するアミノ酸だけに配慮するのではなくて、溝の外のflanking residuesの修飾も重要であることもわかった。

「さまざまな免疫病や悪性腫瘍に対するペプチド医薬の開発において、今回の知見が活用されることが期待される。MSを予防するワクチンに関する議論もあるなか、安全かつ有効なペプチド療法の開発に向けて研究を継続していきたい」と、研究グループは述べている。

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