サ高住入居者の健康状態や幸福感、社会的・環境的要因の影響は不明だった
千葉大学は7月29日、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)への入居は、高齢者の身体的健康状態や幸福感の向上につながる可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大予防医学センターの王鶴群特任研究員、河口謙二郎特任助教、LINGLING特任研究員、井手一茂特任助教、中込敦士准教授、近藤克則特任教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology」に掲載されている。

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高齢化率の高い日本では、高齢者が安心して暮らせる住まいへのニーズが年々高まっている。サ高住は、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」の改正により供給されるようになった住宅で、その数は年々増加している。バリアフリーな住環境に加え、安否確認や生活相談などのサービスを提供することで、入居者が自立した生活を送りながら、安心して暮らすことができるよう支援している。
これまでに行われたサ高住も含む高齢者住宅に関する研究では、地域在住高齢者に比べて入居者は主観的な健康状態が良いことや、社会参加が多いことが報告されている一方で、これらの高齢者住宅への転居は、精神的な健康や身体能力に悪影響を及ぼす可能性も示唆されている。このように高齢者住宅が健康状態や幸福感に及ぼす影響については、年齢や所得などの背景要因が地域在住高齢者とは異なっていることから、はっきりしない面も多く、さらなる検証が必要とされていた。特にサ高住の入居者と地域在住高齢者の健康状態や幸福感を直接比較し、社会的・環境的要因の影響まで十分に検討した報告はなかった。そこで研究グループは今回、サ高住の入居者と地域在住高齢者のデータを用いて比較分析を行った。
サ高住入居者と地域在住高齢者の健康感・幸福感および社会的行動・社会的要因を比較
サ高住にはさまざまなタイプがあるが、同研究で対象としたサ高住では、バリアフリーの住まいや見守り・相談に加え、栄養バランスの取れた食事を提供する共用食堂や、地域活動への参加を支援するコンシェルジュによる情報提供、専門職による体操教室の実施など、入居者が安心して元気に暮らせる環境が整えられている。
傾向スコアマッチング手法を用い、JAGESデータから、サ高住入居者と、サ高住入居者と似た12項目の背景要因を持つ地域在住高齢者を1:7の割合で抽出。用いた要因は、性別、年齢、教育歴、手段的日常生活動作、等価所得、資産、就労状況、独居状態、BMI、治療中の疾患の有無、主観的健康感、要介護度の12項目である。
最終的に、サ高住群の1,080人(平均年齢83.9歳、女性69.4%)と地域在住高齢者群の7,560人(平均年齢84.1歳、女性67.8%)に健康感や生活に関するアンケート調査を行い健康感・幸福感および社会的行動・社会的要因を比較した。
健康感・幸福感については、以下の9項目について、各項目を0~10点で評価し(10点が最も良好な状態、0点が最も不良な状態)、その平均得点をサ高住群と地域在住高齢者群で比較した。社会的行動・社会的要因については、以下の8項目の割合(うつ状態は平均点数)を両群で比較した。
サ高住の入居者は地域在住高齢者に比べ、幸福感・生活満足度・身体的健康状態が良好
その結果、健康感・幸福感に関する比較では、地域在住高齢者に比べて、サ高住の入居者は幸福感、生活満足度、身体的健康状態が良好であることが確認された。一方で、精神的健康状態、人生の価値や目的、社会関係などの項目に関しては、両群間に明確な違いは認められなかった。
社会的行動・社会的要因に関する比較では、地域在住高齢者と比べて、サ高住の入居者の外出、介護予防活動、友人と会う、他者と一緒に食事を取るといった活動への参加頻度が高く、よく笑い、心の支えとなる情緒的サポートを受けていることも明らかになった。
今後も継続的な追跡調査による検証を行っていく予定
今回の研究により、サ高住に住むことが高齢者の健康感や幸福感につながる可能性を示す知見が得られた。これらの知見は、超高齢社会において高齢者の健康感と幸福感の維持・向上を目指した住宅モデルの今後の開発や、政策立案への貢献が期待される。しかし一方で、本研究は一時点のデータによる比較であるため、因果関係の解釈には注意が必要である。今後は、継続的な追跡調査による検証を行っていく、と研究グループは述べている。
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