eGFRdiffは糖尿病患者の予後を予測できるか?
順天堂大学は7月28日、糖尿病患者のコホートデータベースを用いて、血清クレアチニンとシスタチンCから算出されるeGFRの差(eGFRdiff)が、腎疾患の進行および生命予後とどのように関連するかを詳細に解析した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科腎臓内科学の合田朋仁准教授、村越真紀准教授らの研究グループと、広島赤十字・原爆病院内分泌・代謝内科の亀井望部長、札幌医科大学内科学講座循環病態内科学分野の古橋眞人教授らの共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」のオンライン版に掲載されている。

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糖尿病は、進行すると腎不全に至る糖尿病関連腎臓病を引き起こすことから、透析導入の主要な原因となっている。糖尿病患者では、タンパク質異化亢進や慢性炎症が複合的に作用し、筋肉量の減少や筋力低下を特徴とするサルコペニアやフレイルが進行することが知られている。これらの病態は腎疾患の進行だけでなく、心血管イベントや死亡リスクを高めることが指摘されている。
これまで、腎機能評価には血清クレアチニンに基づく「eGFRcr」が広く用いられてきたが、筋肉量の影響を受けやすいという課題があった。一方、血清シスタチンCに基づく「eGFRcys」は筋肉量の影響を受けにくいため、より正確な腎機能評価が可能とされている。しかし、eGFRcysからeGFRcrを差し引いた値である「eGFRdiff」が、糖尿病患者の予後予測にどの程度寄与するかは十分に検討されていなかった。
そこで今回の研究では、糖尿病患者を対象に、eGFRcr、eGFRcys、そして両者の差であるeGFRdiffと、将来の腎疾患の進行および生命予後との関連を検討した。
eGFRdiff、腎疾患の進行および死亡リスクと強く関連
解析の結果、eGFRdiffが大きい(eGFRcysがeGFRcrよりも低い)ほど、腎疾患の進行(ベースラインから30% eGFRcr低下)および全死亡のリスクが増加することが明らかになった。特に、腎疾患の進行と強い関連が認められた。
クレアチニンとシスタチンCは日常の血液検査で広く測定されており、eGFRdiffはこれらのデータから容易に算出できる。このため、特別な検査機器やコストを必要とせず、日常診療にすぐに導入できる実用的な指標になると考えられる。
eGFRdiff、腎機能だけでなく全身状態も反映する可能性
GDF-15(Growth Differentiation Factor-15)は、炎症や心血管疾患、さらにはサルコペニアに関連するバイオマーカーであり、糖尿病患者の予後予測にも有用であると報告されている。同研究でeGFRdiffとGDF-15の関連を多変量解析で評価したところ、腎機能指標などで補正しても、両者には有意な関連が認められた。この結果から、eGFRdiffはGDF-15のようなサルコペニアや慢性炎症を反映するマーカーと関連しており、単なる腎機能指標にとどまらず、全身状態を反映する可能性があると考えられた。
また、eGFRdiffは腎機能指標(尿アルブミンやeGFRcr)とは異なる情報を提供しうることから、これらと組み合わせることで、糖尿病患者の腎疾患の進行および生命予後のより精密なリスク層別化が可能となることが示唆された。
早期のリスク層別化に基づく個別化医療の実現に期待
今回の研究から、eGFRdiffという簡便かつ既存の検査データから算出可能な指標が、糖尿病患者の腎疾患の進行および生命予後を予測する上で極めて有用であることが示された。これにより、eGFRdiffを用いることで、糖尿病患者の中から腎疾患の進行や死亡リスクが高い患者を早期に特定し、より積極的な介入や治療方針の検討が可能になる。また、患者の個々の状態に応じたリスク評価に基づき、よりパーソナライズされた治療計画の立案に貢献することが期待される。さらに、重症化を未然に防ぐことで、透析導入や合併症治療にかかる医療費の削減にもつながる可能性がある。
「今後はeGFRdiffを臨床現場でどのように活用していくか、具体的な介入方法や治療効果についてさらなる研究を進め、糖尿病関連腎臓病の予後改善に貢献していきたい」と、研究グループは述べている。
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