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新型コロナのクラスター発生確率の計算に成功、「抗原検査」は確率減の鍵-名大ほか

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2023年10月11日 AM10:46

クラスターの発生リスクを下げるには?

名古屋大学は10月5日、新型コロナウイルス感染によるクラスターの発生確率の計算に世界で初めて成功したことを発表した。この研究は、同大大学院理学研究科の岩見真吾教授らの研究グループと、英国オックスフォード大学との共同研究によるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

新型コロナウイルスワクチンの広がりを背景に、世界各国は感染拡大の防止に努めつつ、社会活動の再開・維持を模索する新たな時代「ウィズコロナ」が到来している。典型的な例として、日本は2023年5月に新型コロナウイルス感染症を5類感染症に分類し、新たな対策指針を導入した。しかし、新型コロナウイルスの感染流行は、免疫力低下や、ウイルスの継続的な進化といった要因によって引き続き影響を与えており、現在、国内外で新規感染者数が再び増加の兆しを見せている。特に、学校や職場などの特定の集団内での局所的な感染拡大は、教員や職員の不在などによる混乱を引き起こし続けている。

高齢者施設などに定期的な抗原検査による感染者スクリーニングを導入して、できるだけ早期の段階で感染者を特定・隔離できればクラスターの発生リスクを下げられる可能性がある。ただし、このようなスクリーニングがクラスターの発生確率にどのように影響を与えるかは、その計算方法が確立されておらず、不明だった。

抗原検査による感染者スクリーニングは、発生確率軽減に

今回研究グループは、分岐過程と呼ばれる数学理論を拡張することで、感染者ごとに異なるウイルス量の時間変化を考慮した上で、クラスターの発生確率を計算する公式を導き出した。その結果、抗原検査のタイミングやそれに伴う偽陰性割合を踏まえて評価しても、感染者スクリーニングによりクラスターの発生確率を大幅に軽減できることが明らかになった。また、抗原検査の導入は、学校や職場など、発症前の感染者が主な感染源である場合や、無症候感染者が増えた場合に、特に効果的であることが示唆された。

具体的には、感染者による平均的な2次感染者数(基本/実行再生産数)が1.5人程度と仮定し、オミクロン株の臨床データを用いて、毎日の抗原検査による感染者スクリーニングを実施した場合、クラスターの発生確率は32%となり、抗原検査を導入しない場合と比較して、20%程度の感染伝播を防げることがわかった。また、2日に1回の抗原検査を実施した場合のクラスターの発生確率は43%となり、13%程度の感染伝播の軽減効果しかないことがわかった。

高頻度に抗原検査を実施してもクラスター発生確率は0%にはならない

さらに、平均的な2次感染者数が1.25人以上の場合(新型コロナウイルス感染症では2~6人程度)、高頻度な抗原検査(例えば1時間に1回の抗原検査)を導入したとしてもクラスターの発生確率は0%にはならないことも明らかになった。つまり、ワクチンの追加接種キャンペーンや他の感染症対策により、実行再生産数を可能な限り低くすることも引き続き重要になることが示唆された。

開発した公式はあらゆる感染症に適用可能

抗原検査による感染者スクリーニングは、感染者が発症する前の状態(未病状態)を検出できる重要な手段であることから、今回開発したクラスターの発生確率を計算する公式と合わせれば未病状態を踏まえた感染症対策の効果を最大限発揮することが可能になる。なお、開発したクラスターの発生確率の公式は、新型コロナウイルス感染症に限定されずに、あらゆる感染症に適用可能で、未知の感染症によるパンデミックを想定した感染症対策にも極めて有効な手段となることが期待される。

公衆衛生政策アドバイザーにとって重要な課題は、ある集団に侵入した感染症が、地域でクラスターやアウトブレイクを引き起こすリスクを推定することだ。異なる特徴を持つ集団におけるクラスターの発生確率を計算できれば、限られた感染症対策の資源を効果的に投入することが可能になる。

「新型コロナウイルス感染症の流行が完全には収まらない中、感染予防対策を徹底しつつ社会活動を再開・維持する方法(ウィズコロナ)が議論されている。特に感染症に対して脆弱な人々がいる、病院や高齢者施設などでのクラスター発生のリスクを最小限に抑える方法が、日本のみならず世界的に求められており、今回の研究はそのような要望に応えるものだ」と、研究グループは述べている。

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