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心不全の増悪に関与する分子を同定、心筋細胞が分泌するWnt5aタンパク質-関西医科大

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2023年09月13日 AM11:32

心臓の発生に重要とされるβ-カテニン非依存性Wnt経路、心疾患との関連は不明

関西医科大学は9月11日、心筋細胞由来Wnt5aが心不全を増悪させること、また、心筋細胞ではWnt5aが転写調節因子であるYAP(Yes-associated protein)の活性化を介して機械的刺激の受容に関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大内科学第二講座塩島一朗教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

Wntは受容体に結合するリガンドとして機能する分泌タンパク質である。元々は発生段階の形態形成や発がんにおいて重要な分子として研究が進められてきたが、その後の解析により幹細胞の分化やさまざまな変性疾患の病態に関与するなど多彩な作用を有することが明らかにされてきた。Wntによって活性化される細胞内シグナルは転写調節因子β-カテニンの核内移行を介して標的遺伝子の転写がおこる古典的Wnt経路とβ-カテニン非依存性の非古典的Wnt経路に大きく分けられ、循環器領域では古典的Wnt経路は心臓の発生、心筋細胞分化、心臓の肥大やリモデリングに関与することがこれまで明らかになっていた。一方、非古典的Wnt経路はその主要なリガンドであるWnt5a、11によって活性化され、心臓の発生、特に二次心臓領域の形成に重要であることが報告されていたが、心肥大や心不全のような心疾患の病態における役割はこれまで明らかにされていなかった。そこで研究グループは成体の心臓における非古典的Wntシグナル経路の病態生理学的意義について解析を行った。

心筋だけにWnt5a欠損を誘導可能なマウス作製、通常条件下での欠損は心臓に影響なし

Wnt5aによって活性化される非古典的Wntシグナル経路の成体の心臓における役割を探るために、抗がん剤の一種であるタモキシフェンを投与すると心筋細胞においてのみWnt5aの遺伝子発現が消失する心筋特異的タモキシフェン誘導型Wnt5aノックアウトマウス(Wnt5aCKO マウス)を作製した。12週齢でタモキシフェンを投与して2週間後および1年後に心臓超音波検査を行ったところ、対照群のマウスとWnt5aCKOマウスで明らかな差はみられず、通常の飼育条件下では心筋細胞由来Wnt5aを欠損しても心臓の形態や機能には影響がないことがわかった。

横行大動脈縮窄術による左室収縮能低下や心筋細胞肥大、Wnt5aCKOマウスでは軽減

次に成体マウスに大動脈弓部の血流を制限する横行大動脈縮窄術(transverse aortic constriction:TAC)を行って心臓へ圧負荷をかけ、どのような影響がでるか解析した。対照群マウスではTAC後2週間・4週間で左室収縮能低下や心筋細胞肥大が起こり、また圧負荷によって誘導されるNppb(B-typenatriuretic peptide:B型ナトリウム利尿ペプチド)遺伝子の発現が亢進していた。一方Wnt5aCKOマウスでは対照群マウスと比較してTAC2週後・4週後ともに、左室収縮能低下や心筋細胞肥大が軽減され、Nppb遺伝子発現亢進も抑制されていた。すなわち、心筋細胞由来のWnt5aが圧負荷による心不全を増悪させることが明らかになった。

Wnt5a欠損によって、圧負荷後に機械的刺激に応答する遺伝子群が増加しない

心筋細胞由来Wnt5aが心不全を増悪させるメカニズムを明らかにするためにRNAseqによる網羅的遺伝子発現解析を行い、対照群マウスでは圧負荷後に増加するのに対してWnt5aCKOマウスでは増加しない遺伝子群を抽出したところ、NppbやAnkrd1(ankyrin repeat domain1)に代表される機械的刺激に応答する遺伝子群が、対照群マウスでは圧負荷後に増加するのに対してWnt5aCKOマウスでは増加しないことが明らかになり、Wnt5aが機械的刺激に対する細胞応答に関与していることが示唆された。そこで培養心筋細胞に対して伸展刺激を加える実験系を用いてこの仮説を検証した。ラットの培養心筋細胞に伸展刺激を加えるとNppb遺伝子の発現が亢進し、Wnt5a遺伝子をノックダウンすると伸展刺激後のNppb発現亢進が抑制されることがわかった。

以上の結果は、Wnt5aが心筋細胞において機械的刺激に対する細胞応答に必要であり、心筋由来Wnt5aが心筋細胞の機械的刺激受容を介して心機能障害を促進する可能性を示唆するものと考えられた。

YAPの核内移行をWnt5aが制御し機械的刺激に応答する

次にWnt5aの有無によってその機能が変化する転写因子を明らかにするためにUpstream解析を行ったところ、圧負荷を加えた心臓および伸展刺激を加えた培養心筋細胞ともにWnt5aのノックアウトまたはノックダウンにより転写因子TEAD1(TEA domain transcription factor 1)の機能が抑制されていることが明らかになった。TEAD1は転写調節因子YAPの核内移行により活性化されることから、伸展刺激を加えた培養心筋細胞でYAPの細胞内局在をみたところ、control細胞では伸展刺激によりYAPの核内移行が起こるが、Wnt5aノックダウン細胞では伸展刺激によるYAPの核内移行が阻害されていた。また、伸展刺激によるNppb遺伝子の発現亢進はYAPのノックダウンにより抑制され、逆にWnt5aノックダウンにより生じた伸展刺激後のNppb遺伝子発現抑制は、薬理学的にYAPの核内移行を起こすことにより抑制効果が解除された。

以上の結果は、-YAPシグナルが心筋細胞の機械的刺激受容に関与することを示唆するものと考えられた。YAPはタンパク質リン酸化酵素LATS1/2によりリン酸化を受けると核内移行が阻害されることから、伸展刺激とWnt5aシグナルが共存するような条件ではLATS1/2の活性が低下してYAPの核内移行がおこり機械的刺激に対する細胞応答がみられるが、Wnt5aのシグナルが入らない状況においては伸展刺激のみではYAPの核内移行がおこらず、機械的刺激に対する細胞応答が減弱することが考えられた。

Wnt5a阻害による新たな心不全治療法の開発に期待

今回の研究により(1)心筋細胞由来のWnt5aが圧負荷による心不全を増悪させること、(2)Wnt5a-YAPシグナルが心筋細胞の機械的刺激受容に関与することが初めて明らかになり、心筋由来Wnt5aが心筋細胞の機械的刺激受容を介して心機能障害を促進する可能性が示唆された。「本研究の成果をもとにWnt5a阻害を基盤とした新たな心不全治療法が開発されることが期待される」と、研究グループは述べている。

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