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心拍数を「顔の映像」から高精度に推定する手法を開発-東京理科大ほか

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2023年08月10日 AM10:24

環境光変動が生じても容積脈波測定法を可能にするには?

東京理科大学は8月7日、顔が撮影された映像を時空間解析手法の一つである「動的モード分解」により解析することで、心拍由来のわずかな色変化()を抽出し、非接触で心拍数を推定できる新たな容積脈波測定法を開発、さらに、同手法の方が従来法よりも高い精度で被験者の心拍数を推定できることを実証したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究科電気工学専攻の栗原康佑氏(2023年度博士後期課程3年、日本学術振興会特別研究員)、同大学工学部電気工学科の前田慶博講師、浜本隆之教授、津田塾大学学芸学部情報科学科の杉村大輔准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「IEEE Access」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

容積脈波測定法は、心臓の拍動によって生じる血管の容積変化である脈波を、皮膚に生じるわずかな色調変化から測定する方法である。測定された脈波の周期成分から、心拍数などを算出することが可能となる。容積脈波測定法を顔の映像に対して応用することによって、皮膚に直接測定機器を装着せずに、測定を行うことができる。これにより、測定機器を接触させることにより生じる、被測定者の皮膚の炎症や、測定中のストレスを軽減できることが期待される。しかしながら、撮影環境によっては環境光が変動するため、正確な脈波や心拍数の推定が難しいという課題があった。そこで研究グループは、環境光変動が生じる場合でも、高い精度で脈波や心拍数が推定できる手法の開発を目的とし、研究を進めてきた。

脈波の「準周期的な非線形ダイナミクスを示す特性」を考慮した手法を検討

これまでの研究から、脈波は準周期的な非線形ダイナミクスを示すことが知られている。この知見に基づき、脈波のダイナミクスは特定の周波数範囲において指数関数的な振幅の減衰・発散成分を持たない振動系として近似的にモデル化することができる。ノイズは通常、脈波のような準周期的な挙動を示さないことから、このダイナミクスモデルに基づき動的モード分解で解析することで、ノイズの影響を低減することができると考えられた。

研究グループは、多次元時系列信号から時空間ダイナミクスを抽出する「動的モード分解」を用いた時空間構造解析により、顔の映像から脈波信号を抽出する新たな心拍数推定法の開発を行い、その妥当性の評価を行った。具体的には、まず、顔映像の各フレーム画像から色信号(RGB)を抽出し、次に、脈波が非線形かつ準周期的なダイナミクス特性を示すことをモデル化した、動的モード分解を実行し、脈波信号を抽出した。そして、推定された脈波信号の心拍変動量の解析を行うことにより、心拍数を推定した。

環境光変動下の画像でも、開発した手法では高精度に心拍数を推定

次に、公開データセット(TokyoTech Remote PPGデータセット、MR-NIRPデータセット、UBFC-rPPGデータセット)を用いた実験により、今回開発した手法の有効性を検討した。安定した環境光環境で作成されたTokyoTech Remote PPGデータセットと MR-NIRPデータセットにおいては、開発した手法、従来法のいずれでも正確な心拍数推定を行うことができた。これは、安定した環境光のもとではノイズ成分が少なく、すべての顔フレームで脈波の伝播が明瞭に観察されたためと考えられた。一方で、環境光が変化する環境で作成されたUBFCデータセットにおいては、従来法ではノイズと脈波成分を区別できず、精度が低くなることがわかった。これに対し、開発した手法では、精度の高い心拍数推定を実現できることが明らかとなった。これは脈波のダイナミクス特性を取り入れた動的モード分解による時空間解析を適用することで、環境光が変動するシーンにおいても脈波信号と心拍数を精度良く推定できることを示唆している。

ビデオ会議システムを利用した遠隔医療等への応用に期待

研究成果について、前田講師は「研究では、環境光変動が生じるシーンにおいても高精度な心拍数推定を実現するために、脈波の時間・空間特性を考慮した心拍数推定手法の開発を行った。ビデオ会議システムを利用した遠隔医療やスマートフォンなどのカメラを用いた健康モニタリングへの応用が期待される」と、述べている。

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