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「他者の報酬が気になる」神経回路を発見、ニホンザル実験で-生理研

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2023年07月28日 AM10:49

相対的価値を処理する神経回路を選択的に遮断し、サルの行動を検証

生理学研究所は7月26日、ニホンザルの内側前頭前野から視床下部外側野に至る神経回路の活動を人工的に遮断することで、それまで他者の報酬を気にしていたサルが、それを気にしなくなることを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所の則武厚助教、二宮太平助教、小林憲太准教授、磯田昌岐教授によるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

程度の差こそあれ、ヒトは誰でも他者の得るものが気になるものだ。身近な例では、職場の同僚の給料が気になってしまい、同じ仕事内容にもかかわらず、同僚の給料が自分より多いとわかると、嫉妬を感じて人間関係がぎくしゃくしたり、仕事への意欲が低下したりすることがあるのではないだろうか。確かに、給料や財産にはその価値を定める絶対的な基準がないため、自己の報酬の価値は多くの場合、他者のそれと比較して決まることになるだろう。このようにして決まる報酬の価値を、ここでは「相対的価値」と呼ぶことにする。

それでは、他者の報酬に関する情報は、脳内のどこでどのように処理されるのだろうか。研究グループはこれまでの研究で、(1)サルもヒトと同様に他者の報酬を気にする、(2)大脳皮質の内側前頭前野には自己または他者の報酬情報を処理する神経細胞が存在する、(3)脳幹に近い視床下部外側野には報酬の相対的価値を処理する神経細胞が存在する、ということを明らかにしてきた。これらの結果から、「内側前頭前野から視床下部外側野に至る神経回路は、相対的価値の計算に深く関わっており、仮にこの回路が阻害されれば、サルは他者の報酬を気にしなくなるのではないか」という仮説が導かれる。

しかし、この神経回路が報酬の相対的価値の認識に直接影響を与え、サルの行動を変化させるのかどうかはわかっていなかった。そこで今回の研究では、ウイルスベクターを利用して、内側前頭前野から視床下部外側野に至る神経回路を選択的に遮断することで、サルの行動に、どのような変化がみられるかを検証した。

他者報酬による自己報酬の価値評価への影響を、ジュースとリッキングで確認

検証のためにはまず、サルが報酬の価値をどのように評価しているのかを、サルの行動から測定することが必要だ。研究グループはこれまでの研究で、(ジュース)を与えた際のリッキング運動(ジュースを飲もうとする口の動き)から、サルにとっての報酬の価値を測定する方法を確立している。今回の研究でも同様に、対面する2頭のサルに「社会的古典的条件づけ」とよばれるタスクを課し、リッキング運動の回数を測定した。自己の報酬量が変化する条件では、自己の報酬確率が高くなるほど、リッキングが増え、自己報酬の価値が高まることを確認した。一方で、他者の報酬量が変化する条件では、自己の報酬確率は一定にもかかわらず、他者の報酬確率が高くなるほど、リッキング運動が減少し、自己報酬の価値が下がることを確認した。このことは、他者の報酬が、自己の報酬の価値評価に影響を及ぼす、すなわち、相対的価値が計算されていることを示すものだという。

~視床下部外側野の神経回路の選択的遮断で、他者の報酬を気にしなくなる

次に、内側前頭前野から視床下部外側野への神経回路の働きが、サルの行動にどのような影響を与えるのかを直接的に検証するため、ウイルスベクターを用いて、内側前頭前野の神経細胞の中で視床下部外側野へ投射するものだけに人工受容体を発現させた。これにより、外からDCZと呼ばれる薬を投与したときのみ、標的とする神経回路の機能を遮断することが可能となった。この遮断効果は一過性であるため、繰り返し調べることができるという利点がある。

このようにして内側前頭前野から視床下部外側野に至る神経回路の活動を遮断したところ、他者の報酬が変化する条件において、他者の報酬確率がリッキング運動に影響を与えなくなることがわかった。この結果は、内側前頭前野から視床下部外側野に至る神経回路を遮断することで、サルが他者の報酬を気にしなくなったことを示している。

一方、自己の報酬が変化する条件では、報酬が増えるとリッキング運動が増える傾向に変化はなかった。この結果は、たとえ上記の神経回路が遮断されても、自己の報酬に対する評価は、変わらず行われていることを示している。これらの結果から、他者の報酬情報を考慮し、相対的価値を評価する際に、内側前頭前野から視床下部外側野に至る神経回路が決定的に重要な役割を担っていることが結論付けられた。

内側前頭前野~視床下部外側野への情報の流れ、他者の報酬確率が変化する場合のみ減少

さらに研究グループは、内側前頭前野と視床下部外側野の神経活動を電気生理学的手法により同時計測し、神経回路の遮断中にどのような変化が生じているのかを解析した。その結果、内側前頭前野から視床下部外側野に向かう情報の流れが、他者の報酬確率が変化する条件のみにおいて減少していることを突き止めた。

磯田教授は、「内側前頭前野から視床下部外側野に至る神経回路を選択的に遮断すると、自己の報酬の価値を評価する際に他者の報酬を考慮しなくなるという結果が得られた。脳内には無数の神経回路があるが、他者の報酬情報を伝える神経回路は少なく、その中でも特に内側前頭前野から視床下部外側野への情報伝達が重要であることを示唆しているのだと思う。今回の研究成果は、他者の報酬を気にしてしまうという人間らしい認知特性を生む神経回路を同定したものであり、複雑な社会的情動である嫉妬の神経基盤の解明につながるものと考えている」と、述べている。

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