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PM2.5が妊娠糖尿病に関連の可能性、日本の妊婦対象の疫学研究で-東邦大ほか

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2022年10月06日 AM10:32

PM2.5にさらされると血糖値上昇、妊娠糖尿病との関連は?

東邦大学は10月4日、2013~2015年にかけて妊娠・出産した妊婦対象の疫学研究の結果、近年糖尿病の危険因子である可能性が指摘されている大気汚染物質の一つである微小粒子状物質()が、妊娠糖尿病とも関連している可能性がわかったことを報告した。この研究は、同大医学部社会医学講座衛生学分野の道川武紘講師、西脇祐司教授らと、、東京都環境科学研究所からなる研究グループによるもの。研究成果は「JMA Journal」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

微小粒子状物質(PM2.5)は大気汚染物質の一つで、大気中に浮遊している大きさが2.5μm(1μmは1mmの1,000分の1)以下の粒子で、複数の成分(炭素成分、硫酸イオンや硝酸イオンなどのイオン成分、鉄やアルミニウムなどの無機元素成分他)から構成されている混合物質である。

これまでの研究からPM2.5と呼吸器系や循環器系の病気との関連性が認識されていたが、さらにPM2.5は糖尿病の危険因子であるという可能性が指摘されている。PM2.5にさらされると血糖値が上がる、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの作用が鈍るなど、糖代謝に異常が生じるという報告がある。そのため、PM2.5は妊娠糖尿病の原因にもなるのではないかという仮説が立てられていた。研究グループは今回、PM2.5と妊娠糖尿病とに関連性があるのか、特に妊娠のいつの時期のPM2.5が影響するかを調べる疫学研究を行った。

調査対象は2013~2015年の東京23区内の妊婦約8万人

研究の対象地域は東京23区。23区内生活環境中のPM2.5全体濃度とその他の汚染物質であるオゾン濃度は、複数の一般環境大気測定局の測定データを比較した結果概ね均一であると見なせたため、晴海測定局での測定データを23区内のPM2.5全体濃度とオゾン濃度の代表値として取り扱った。これらに加えて、晴海測定局から東に5kmほどの東京都環境科学研究所で2013年4月から測定されていたPM2.5の炭素成分(、元素状炭素)とイオン成分(硫酸、硝酸、アンモニウムなど)の成分濃度も利用した。

対象となる妊婦集団の匿名情報は、日本産科婦人科学会による周産期登録データベースから提供を受けた。2013~2015年にかけて東京23区内でこの登録事業に協力した39病院で単胎出産し、必要なデータが得られた妊婦8万2,773人を解析対象とした。

対象者1人1人について、出産日とその日における妊娠週数から妊娠初期(0~13週)と妊娠中期(14~27週)に該当する期間を求めて、概ね3か月の平均PM2.5濃度を推定した。妊娠前におけるばく露の影響を指摘する研究もあることから、妊娠前3か月の平均濃度も推定した。統計モデルを使って、PM2.5濃度や成分濃度が四分位範囲上昇した場合に妊娠糖尿病と診断される人が多くなるか(オッズ比)を算出した。この際、出産時年齢、妊娠した季節、出産回数、喫煙や飲酒習慣、妊娠前の肥満度、過去の妊娠糖尿病診断歴や不妊治療を勘案して、これらの背景情報の違いによる影響を取り除くようにした。

妊娠初期にPM2.5濃度が高くなると妊娠糖尿病の診断例増加、有機炭素との関連性が示唆

対象者8万2,773人の出産時平均年齢は33.7歳で、4.8%が妊娠糖尿病と診断されていた。統計モデルを使用して関連性を検討したところ、妊娠初期のPM2.5全体濃度が高くなると妊娠糖尿病と診断される例が多くなることが観察された。妊娠初期のPM2.5全体濃度平均は16.8μg/m3だった。

また、妊娠初期について妊娠糖尿病と関連する特定のPM2.5成分があるか調べたところ、有機炭素との関連性が示唆された。一方、海外の先行研究で妊娠糖尿病との関連性が指摘されているオゾン濃度についても検討したが、今回の研究では関連がみられなかった。

どの妊娠時期のPM2.5が影響するか、さらに研究が必要

妊娠初期におけるPM2.5全体濃度が相対的に高かった妊婦で妊娠糖尿病と診断される例が多くなる傾向が判明した。妊娠糖尿病との関連性は海外では報告されていたが、日本からは初めての報告となる。妊娠糖尿病では妊娠初期に始まる胎盤形成の異常を認めることがある。胎盤形成の異常は高い血糖値の影響を受けたものと考えられるが、PM2.5が誘因となる炎症反応や酸化ストレスによって血糖値が上昇するという報告がある。先行研究でも妊娠初期における濃度との関連性が指摘されているが、それ以外の妊娠期間との関連性を示唆するものもあり、今のところ妊娠のいつの時期のPM2.5が影響するのか結論づけられていない。今後さらに研究を進める必要がある。

また今回は、PM2.5成分の中でも自動車エンジンから直接排出される、あるいは大気中の炭化水素が大気中で反応して生成される有機炭素との関連が認められた。有機炭素については炎症反応や酸化ストレスを誘導するという報告があるため、矛盾はないと考えられる。

大気のPM2.5濃度平均は研究時点より低下、再評価の必要も

また、今回の研究対象者の住所はわからなかったため、一つの測定局での測定データを全体対象者にあてはめるという簡易なPM2.5濃度評価を行った。東京23区内複数の一般環境大気測定局の測定データを比較したところ、PM2.5全体濃度は概ね均一と見なせた。利用した晴海測定局から距離が近い病院での出産例に限定した解析でも同じ傾向だった。従って、簡易の濃度評価ではあったが、この研究の中ではPM2.5と妊娠糖尿病との関連性は正しいものだと考えられる。

一方、研究時点で妊娠初期のPM2.5全体濃度平均は16.8μg/m3だったが、PM2.5濃度は年々低くなる傾向にあり、現在、東京23区内におけるPM2.5濃度は環境基準である年平均15μg/m3を下回る濃度になっている。研究グループは「今後、環境基準を下回ってからのデータを利用して再評価する必要があるだろう」と、述べている。

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