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悪性リンパ腫の遺伝要因、病理組織型と強く関連する病的バリアントを発見-理研ほか

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2022年09月12日 AM10:48

遺伝的要因による悪性リンパ腫のデータは少なく分類が未確立

(理研)は9月6日、日本の2,000人以上の悪性リンパ腫患者群と非がん対照群を用いた世界最大規模の症例対照研究を行い、悪性リンパ腫の中に単一遺伝子疾患型が存在する可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの碓井喜明特別研究員、桃沢幸秀チームリーダー、東京大学医科学研究所人癌病因遺伝子分野の村上善則教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻クリニカルシークエンス分野の松田浩一教授、愛知県がんセンターがん予防研究分野の松尾恵太郎分野長、岡山大学病院長(大学院医歯薬学総合研究科血液・腫瘍・呼吸器内科学分野)の前田嘉信教授、国立がん研究センター中央病院遺伝子診療部門の吉田輝彦部門長、佐々木研究所附属杏雲堂病院遺伝子診療科の菅野康吉科長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

悪性リンパ腫は造血器腫瘍の中で最も多い疾患の一つで、2020年には世界に約63万人が罹患しているとされている。悪性リンパ腫には非常に多くの病理組織型が存在し、現在は約70個に分類されている。その分類を基にした治療の最適化や病気の予後の予測は、それぞれの患者に適した診療につながる。実際に、さまざまな医療技術の進歩に伴い、悪性リンパ腫の患者の予後は大きく改善してきている。例えば、日本における5年相対生存率は、1993〜1996年では48.5%だったのに対し、2009〜2011年では67.5%まで向上した。

過去の研究から、悪性リンパ腫患者の一部は遺伝的要因が発症の原因と考えられることが示唆されてきた。疾患と遺伝的要因の関係が明らかになると、予防法の開発、診断の精度向上、原因遺伝子への治療法開発など診療が大きく変化する可能性がある。実際、同じ造血器腫瘍である骨髄系腫瘍では遺伝的要因が原因とされる分類が確立された後、患者の血縁者においてもスクリーニングが検討されるようになってきている。しかし、悪性リンパ腫に関しては、大規模なゲノム解析データは少なく、遺伝的要因が原因とされる悪性リンパ腫の分類は確立されるに至っていない。遺伝的要因について明らかにするには、病的バリアントについて大規模に評価する必要がある。そこで研究グループは、日本の悪性リンパ腫について大規模な数のサンプルを使用し、悪性リンパ腫の発症に関連する病的バリアントの存在や病的バリアント保持者に特徴的な臨床情報を調べた。

4個の遺伝子(、BRCA2、、TP53)が発症リスクと関連

研究ではまず、独自に開発したゲノム解析手法を用いて、バイオバンク・ジャパンにより収集された悪性リンパ腫患者群2,066人の血液から抽出したDNAを解析した。非がん対照群38,153人のデータも併せて、乳がん、前立腺がん、膵がんなどの発症に関連する27個の遺伝性腫瘍関連遺伝子について評価した。その結果、4,850個の遺伝子バリアントが同定され、そのうちの309個が病的バリアントであると判定された。これらの病的バリアントと悪性リンパ腫の発症リスクの関連解析を実施したところ、4個の遺伝子(BRCA1、BRCA2、ATM、TP53)が悪性リンパ腫の発症リスクに関連することが判明した。悪性リンパ腫患者のうち、1.6%がこれらの遺伝子に病的バリアントを保持していた。各遺伝子における病的バリアントの悪性リンパ腫の発症リスク(オッズ比)は、最も関連が強かったBRCA1の場合、対照群と比較して病的バリアント保持者は悪性リンパ腫の発症リスクが5.88倍高かった。

また、病的バリアントを保持する悪性リンパ腫患者は、非保持の悪性リンパ腫患者と比較して、乳がんや卵巣がんの家族歴を持つ割合が高い傾向にあることも明らかになった。具体的には、乳がん家族歴では病的バリアント保持者は22.6%に対して非保持者は4.9%、卵巣がん家族歴では病的バリアント保持者は6.5%に対して非保持者は0.5%だった。

9.1%が病的バリアントを保持するマントル細胞リンパ腫、単一遺伝子疾患型が存在の可能性

次に、悪性リンパ腫の病理組織型に対して、これらの遺伝子の病的バリアントの影響に違いがあるかを評価したところ、マントル細胞リンパ腫という病理組織型の患者のうち、9.1%が病的バリアントを保持しており、この組織型の発症リスクと特に強く関連していることが明らかになった。このことはDNA損傷応答経路がマントル細胞リンパ腫の病態において重要であるという、過去のマントル細胞リンパ腫の腫瘍細胞の解析による報告注と矛盾しない結果となった。

結論として、大規模に悪性リンパ腫の病的バリアントを評価することで、、特にマントル細胞リンパ腫の中には、ゲノム配列上たった1カ所の配列の違いにより発症する単一遺伝子疾患型が存在している可能性が明らかになった。このことにより、他のがんと同様に原因遺伝子について考慮することで、悪性リンパ腫の診断や治療がより改善する可能性が示された。

診断の精度向上や原因遺伝子への治療法開発、ゲノム個別医療体制の構築にも期待

今回研究グループは、2,000人以上の悪性リンパ腫患者を対象に世界最大規模の症例対照研究を行い、悪性リンパ腫の中には単一遺伝子疾患型が存在している可能性を明らかにした。「今後、本研究の情報は悪性リンパ腫の分類や診療ガイドラインに貢献し、診断の精度向上や原因遺伝子への治療法開発など、悪性リンパ腫のゲノム個別医療体制の構築に寄与するものと期待できる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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