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口腔がん、細胞外小胞が血管不安定性を誘導し遠隔転移を促進-東京医歯大ほか

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2022年09月06日 AM10:16

がん細胞が血管内皮細胞の接着を緩めて不安定化するしくみには不明点が多かった

東京医科歯科大学は9月4日、がんの増悪化を誘導するトランスフォーミング増殖因子()が、がん細胞からの細胞外小胞(Extracellular Vesicles:EVs)の分泌を促進させ、そのがん細胞由来EVsが正常血管の不安定化を誘導するという、TGF-βが間接的にも転移を促進する原因となることをつきとめたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科病態生化学分野の小林美穂助教、藤原花汐大学院生、高橋和樹連携研究員、井上カタジナアンナ助教、渡部徹郎教授、東京医科大学医学総合研究所分子細胞治療研究部門の落谷孝広教授、吉岡祐亮講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Inflammation and Regeneration」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

がんの進行に伴って誘導される遠隔転移は根治を困難にさせて死亡率を高める要因のひとつであり、がんの転移機構を解明することは重要である。がんを取り巻く周囲の環境は「がん微小環境」と呼ばれ、がんの進展や転移に密接に関連している。がん微小環境に多く存在するTGF-βは、がん細胞に直接作用することで上皮間葉移行(EMT)を引き起こし、遊走・浸潤による転移能の獲得を通して、がんの増悪化を誘導する。がん細胞が遠隔臓器に転移する場合、多くは血管を移動経路としている。血管は血液を運ぶ管であるため、液体が管の外に漏れ出ないように、血管を構成する血管内皮細胞どうしがお互いに強く接着し合うことでバリア機能を保っている。しかし、がん細胞はその血管内皮細胞どうしの接着を緩めて不安定化し、血管内に侵入する。がん細胞は血流に乗って遠隔臓器まで辿り着くと、転移先の正常な血管をも不安定化し、今度は血管外に遊出する。このようにして、がん細胞は血管内皮細胞のバリア機能を不安定化することで、遠隔転移することが知られている。最近では、がん細胞が遠隔臓器に到達する以前に「前転移ニッチ」として、がん細胞があらかじめ転移先の血管を不安定化させていることがわかりつつあるものの、その詳細なメカニズムについては不明な点が多く残されている。また、TGF-βなどのがん転移を誘導する役割を果たす液性因子は、主に腫瘍をとりまくがん微小環境内に多く存在するため、がん微小環境を越えた遠隔臓器まではその効果が届かないと考えられていた。

EVsは血管内皮細胞どうしの接着を弱め物質透過性を亢進、TGF-βの刺激でさらに強く誘導

研究グループは、がん細胞が血管内皮細胞を操るツールとして、がん細胞を含む多くの細胞が分泌するEVsと呼ばれる直径100nm程度の粒子に注目した。がん細胞から分泌されたEVsは、血液、尿、唾液などの体液中に含まれることがよく知られている。EVsにはRNAなどの核酸やさまざまなタンパク質が内包されており、近くの細胞や遠くの細胞とEVsをやり取りすることで、細胞どうしはコミュニケーションを取っている。研究グループは、TGF-βで刺激してEMTが誘導された口腔がん細胞では、無刺激の口腔がん細胞に比べて3倍ほどEVsの分泌量が増加することを発見した。

次に、がん細胞から分泌されるEVsが血管内皮細胞に及ぼす影響を探るために、無刺激の口腔がん細胞由来EVs(Control-EVs)とTGF-β刺激した口腔がん細胞由来EVs(TGF-β-EVs)を用意し、血管内皮細胞で形成した血管内皮シートにそれぞれのEVsを同じ量だけ作用させたところ、どちらのEVs処理においても血管内皮細胞では本来発現していない間葉系細胞マーカーであるSM22αの発現が誘導されており、内皮間葉移行(EndoMT)が引き起こされることが明らかとなった。さらに、EVsは血管内皮細胞どうしの接着を弱め、血管内皮シートに隙間を形成させていた。このような隙間は、血管のバリア機能を低下させて不安定化を導く。そのため、実際に血管内皮シートの物質透過性を測定した結果、EVsは血管内皮シートの物質透過性を亢進させており、バリア機能の低下を招くことが明らかとなった。興味深いことに、このようなEndoMTや血管不安定化によるバリア機能の低下は、TGF-β-EVsの方が強く誘導することが新たに見出された。

TGF-βは分泌されるEVsの量だけでなく作用も増強、がん悪性化因子としての新たな役割を発見

近年、がん細胞が分泌するEVsの役割に注目が集まっており、がん治療の新たな標的になるとして期待されている。がん細胞由来のEVsが、同じくがん細胞に作用することで増悪化が周囲に伝播することは知られていたが、がん細胞由来のEVsが血管内皮細胞に作用することで血管の特性に影響を及ぼすかについては、まだわからないことが多く残されていた。

今回の研究により、TGF-βはがん細胞から分泌されるEVsの量だけでなく、EVsの作用自体も増強させており、TGF-βにより増悪化した口腔がん細胞由来のEVsは、正常血管において血管不安定化につながるEndoMTを誘導することが示された。このような血管の不安定化は、がん細胞が遠隔転移する際に必要となる、がん細胞の血管内への侵入と血管外への遊出を容易にさせる。そのため、TGF-βはがん細胞から分泌されるEVsを変化させることで、間接的に遠隔転移を促進させる可能性が示唆された。また、今回の研究の成果から、TGF-βがEVsを介してがん微小環境を越えた遠隔臓器の細胞にも情報を伝えて血管に変化を生じさせることができるという、TGF-βのがん悪性化因子としての新たな役割も発見された。

詳細な分子メカニズム解明により、遠隔転移の予防や抑制方法開発に期待

研究グループは、TGF-βがどのようにしてがん細胞からのEVsの分泌を促進させるのか、そしてTGF-βにより増悪化した口腔がん由来のEVsは、その中に包まれている「何」を血管内皮細胞に受け渡すことでEndoMTや血管の不安定化を誘導しているのか、これら分子メカニズムを解明するための詳細な研究を進めているという。「これらの研究から、将来、体液中に含まれるEVsを検査することや、がん細胞からのEVsの分泌やEVsによって誘導されるEndoMTを抑制することで、遠隔転移を予防・抑制する方法の開発へ応用されることが期待される」と、研究グループは述べている。

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