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発症早期ALS対象の高用量メチルコバラミンP3試験で進行抑制効果を確認-徳島大ほか

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2022年05月12日 AM11:15

発症3年未満対象P2/3試験の部分解析結果から、1年未満対象JETALS試験を計画

徳島大学は5月10日、発症早期の筋萎縮性側索硬化症()の患者に対する高用量メチルコバラミンの有効性、安全性を検証する目的で「高用量メチルコバラミンの筋萎縮性側索硬化症に対する第Ⅲ相試験--」(Japan Early-stage Trial of Ultrahigh-Dose
Methylcobalamin for ALS:以下、)を行った結果、高用量メチルコバラミンはプラセボ(偽薬)と比較し、発症早期のALS患者において有意に症状の進行を抑制する効果が示されたと発表した。この治験は、同大の梶龍兒特命教授(主任研究者)、同大大学院医歯薬学研究部医学域臨床神経科学分野の和泉唯信教授(治験調整医師)らの研究グループによるもので、徳島大学病院、千葉大学医学部附属病院脳神経内科(桑原聡教授:治験調整医師)など全国25施設で実施された。研究成果は、「JAMA Neurology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ALSは、運動ニューロンが変性して筋萎縮と筋力低下を来す進行性の疾患で、個人差はあるものの発症後2~5年で死亡または人工呼吸器の装着に至る。これまでにリルゾール(経口薬)、(点滴注射薬)が保険収載されているが効果は限定的であり、新たな治療薬の開発が求められている。

活性型ビタミンB12であるメチルコバラミンは、低用量において「末梢性神経障害」と「ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血」に対して保険適用されている薬剤。研究グループは基礎研究において高用量メチルコバラミンに神経保護作用があることを見出し、少数の患者による臨床研究で、高用量メチルコバラミンが神経伝導検査における複合筋活動電位を改善させることを確認した。この結果をもとにエーザイ社が発症3年未満のALS患者を対象とした第2/3相試験を全国51施設で実施し、373人のALS患者(プラセボ群124例、25mg群124例および50mg群125例)に対して、最長182週にわたり治験薬の週2回筋肉内投与を実施した。

この結果として、主要評価項目であるイベント(非侵襲的呼吸補助装置の終日装着、侵襲的呼吸補助装置の装着又は死亡)の発生率50%までの期間、治療開始から182週までのALSFRS-Rの合計点数の変化量において、25mg群および50mg群はプラセボ群を上回る傾向は認められたものの、優越性を示すことができなかった。しかし、ALS発症から治験開始日までの期間が1年未満の部分集団(プラセボ群48例、25mg群54例および50mg群42例)では、50mg群はプラセボ群と比較してイベント発生までの期間を約600日延長し、治療16週時点でALSFRS-R合計点数の低下を約45%抑制する結果が得られた。

第2/3相試験の部分解析において、発症早期のALS患者に対する高用量メチルコバラミンの生存期間延長効果と進行抑制効果が示唆されたため、研究グループは発症1年未満のALS患者を対象として高用量メチルコバラミンの有効性・安全性を再検証するため、JETALSを新たに計画した。JETALSは多施設共同、ランダム化、プラセボ対照、二重盲検並行群間比較試験であり、2017年11月より全国25施設で実施された。

高用量メチルコバラミンはプラセボと比較し、治療16週時点でALSFRS-R合計点数の低下を約43%抑制

同治験では発症早期のALS患者を効率的に組み入れるため、診断基準として従来の改訂El Escorial基準よりも診断感度に優れたupdated Awaji基準(2007年に徳島大学が提唱したAwaji基準の改定版)が世界で初めて採用された。主要評価項目は治療開始から16週までのALSFRS-R合計点数の変化量であり、被験者は16週間にわたり週2回、治験薬(プラセボまたはメチルコバラミン50mg)の筋肉内投与を受けた。

治験開始から約2年間で目標の128例を上回る130例が登録され、このうち129例(プラセボ群64例、メチルコバラミン群65例)が解析対象となり、126例(プラセボ群63例、メチルコバラミン群63例)が16週間の治療期間を完了した。

結果として、高用量メチルコバラミンはプラセボと比較し、治療16週時点でALSFRS-R合計点数の低下を約43%抑制する効果を示した。この結果は第2/3相試験の部分解析結果と同様であり、発症早期ALS患者に対する高用量メチルコバラミンの有効性が再現された。また、同研究の被験者の約90%はリルゾールを併用しており、「リルゾール単独治療」と「リルゾールと高用量メチルコバラミンの併用療法」の比較では、併用治療で有意に症状進行が抑制されていることがわかった。

安全性も確認

安全性について、有害事象(薬を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない徴候、症状、または病気)および副作用(薬によって患者に生じた好ましくない徴候、症状、または病気)の発生率はメチルコバラミン群で約62%、約8%、プラセボ群で約66%、約2%であり、両群に差はなく、高用量メチルコバラミンの高い安全性が確認された。

画期的な治療法として今後の保険収載が期待される

今回の研究において発症早期のALS患者に対して、高用量メチルコバラミンは高い有効性、安全性、忍容性を持つことがわかった。これまでの治療薬として、症状の進行に対する抑制効果は明確でないものの生存期間を約90日延長するリルゾール(経口薬)と、経過中の機能評価スケールを改善するものの生存期間への影響は確定していないエダラボン(点滴注射薬)があったが、高用量メチルコバラミンは、これまでに実施された臨床試験の結果から発症早期のALS患者においてリルゾールよりも長い生存期間の延長が期待され、エダラボンよりも大きな症状の進行抑制効果が示された画期的な治療法として、今後の保険収載が期待される。

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