医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 新型コロナウイルスの紫外線照射による不活化、その原因はウイルスRNA損傷-理研ほか

新型コロナウイルスの紫外線照射による不活化、その原因はウイルスRNA損傷-理研ほか

読了時間:約 3分4秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年07月07日 AM10:45

254nmほか複数の紫外線の有効性が既報告、メカニズムは不明

(理研)は7月5日、紫外線照射による新型コロナウイルス()の不活化はウイルスRNAの損傷が原因であることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、理化学研究所の間陽子客員研究員(現:東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻特任教授)、日本大学医学部内科学系血液膠原病内科分野・総合科学研究所の武井正美教授、中川優助教、飯村一樹客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻のロー・チェ・ウェン博士課程大学院生(3年)、松浦遼介特任助教、理研光量子工学研究センター光量子制御技術開発チームの和田智之チームリーダーらの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

SARS-CoV-2の感染経路は多岐にわたり、飛沫やエアロゾルに含まれるウイルスだけでなく、机や壁あるいは携帯電話など物体表面に付着したウイルスが体内に侵入することでも感染が成立し得ると考えられている。

多様な空間、物体表面、液体に応用できる「」を用いたSARS-CoV-2の不活化が注目され、222nmや254nmおよび280~310nmの波長の紫外線の有効性が報告されている。しかし、紫外線がSARS-CoV-2を不活化するメカニズムは明らかになっていなかった。

実用化されている253.7nmの紫外線照射で99.99%感染性が減少

共同研究グループは、日本大学医学部内のBSL3施設において、SARS-CoV-2を含む液体培地に30cmの距離から、抗ウイルス効果を持つことが知られており、既存の最も安価かつ容易に得られ実用化されている253.7nmの紫外線を500μW/cm2の放射照度で、30秒間照射する実験を行った。

その結果、時間依存的な感染性(ウイルス力価)の減少が確認され、30秒間の照射でSARS-CoV-2の感染性が99.99%減少することがわかった。しかし、99.99%感染性が減少したSARS-CoV-2を電子顕微鏡で観察したところ、紫外線の照射前後で形態の変化は全く見られなかった。

ウェスタンブロッティング法でSARS-CoV-2の構造タンパク質であるスパイクタンパク質(Sタンパク質)とヌクレオカプシドタンパク質(Nタンパク質)の量を測定した結果、紫外線の照射の有無でウイルスタンパク質の量に顕著な差異は認められなかった。また、SARS-CoV-2の持つウイルスRNAの量を現行の医療現場でウイルスの検出のために汎用されているqPCR法(定量PCR法)で測定しても、紫外線の照射の有無で顕著な差異は確認されなかった。

独自開発したqPCR法で有意なウイルスRNA量の減少を確認

そこで研究グループは、ウイルスRNA損傷の計測により適したqPCR法を独自に開発し、紫外線照射前後でウイルスRNA量を測定したところ、30秒間の紫外線の照射によって、有意なウイルスRNA量の減少(ウイルスゲノムの損傷)が確認された。

さらに、現行のqPCR法に用いられているNタンパク質をコードする遺伝子領域だけでなく、ウイルスゲノムの全領域をカバーする6種類のRNA量を測定するqPCR法を新たに開発し、ウイルスRNA量を測定したところ、ウイルスゲノムの全ての領域において、照射時間に依存したウイルスRNA量の減少が見られた。そして、ウイルスRNA量の減少はウイルス力価の減少と非常に高い相関性を示した。

無人環境における壁や床などの効率的な殺菌/ウイルス除去ツールとして有効

今回の研究で、紫外線によるSARS-CoV-2の不活化のメカニズムがウイルスRNAへの損傷であることが世界で初めて立証された。紫外線によるSARS-CoV-2の除去は、さまざまな空間への応用が期待できる。特に、無人環境における壁面や床面、机やイスなどの効率的な紫外線殺菌、紫外線搭載ロボットによるウイルス除去などのクリーンな環境空間の構築に有効なツールであると考えられる。

薬剤やワクチンなどは、ウイルスへの作用部位や抗体の標的部位に変異が加わることで、ウイルスが抵抗性を獲得し、効果がなくなることがある。しかし、紫外線はウイルスRNA全体を損傷させることから、現在、猛威を振るっている感染性の強い変異株や、今後発生し得る変異株にも有効であると考えられる。また、紫外線はポリオウイルスやノロウイルス、インフルエンザウイルスなどに効果があることが知られており、また新興感染症であるエボラウイルスやMERSウイルスを不活化することも報告されている。そのため、今後新たに発生する未知の新興感染症への応用も期待される。

「このように本研究成果は、「Withコロナ」あるいは「ポストコロナ」の社会を実現する安全・安心なクリーン空間の構築に貢献すると同時に、現在世界を震撼させている変異株や今後新たな社会的問題となり得る未知のウイルスの克服にもつながると期待できる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 平均身長の男女差、軟骨の成長遺伝子発現量の違いが関連-成育医療センターほか
  • 授乳婦のリバーロキサバン内服は、安全性が高いと判明-京大
  • 薬疹の発生、HLAを介したケラチノサイトでの小胞体ストレスが原因と判明-千葉大
  • 「心血管疾患」患者のいる家族は、うつ病リスクが増加する可能性-京大ほか
  • 早期大腸がん、発がん予測につながる免疫寛容の仕組みを同定-九大ほか