医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 「LSD1」が赤芽球性白血病で特徴的な代謝表現型を生み出す-熊本大ほか

「LSD1」が赤芽球性白血病で特徴的な代謝表現型を生み出す-熊本大ほか

読了時間:約 3分2秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年05月10日 AM11:00

AMLのうち赤芽球性白血病など多くの病型では個別の治療法がない

熊本大学は5月7日、遺伝子発現に関わる酵素「リジン特異的脱メチル化酵素1()」が、(AML)細胞の病型に応じた代謝の個性を生み出すことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大発生医学研究所の興梠健作研究員、日野信次朗准教授、中尾光善教授と、九州大学の佐藤哲也助教(旧所属)、産業技術総合研究所の新木和孝主任研究員、熊本大学大学院生命科学研究部小児科学分野の中村公俊教授らによるもの。研究成果は、「Blood Advances」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

AMLは、造血幹細胞が白血球や赤血球に分化する途中で腫瘍化することで発症するが、分化のどの段階で腫瘍化するかで、多様な病型が存在することが知られている。そのうち、赤血球への分化の途中で腫瘍化したものは、「」に分類される。一部のAMLでは病態に応じた分子標的療法が開発され、治療成績が向上しているが、赤芽球性白血病をはじめとする多くの病型では個別の治療法がないため死亡率が高く、病型や分子病態に基づく治療法が望まれている。

近年の研究で、がん細胞が持つ固有の物質代謝能が、腫瘍形成、転移や治療抵抗性に大きく寄与することが明らかになった。がん細胞で活発な栄養輸送や代謝経路を標的とした治療戦略が考案されている一方、がんの種類や進行度によって代謝特性に違いがあることも指摘されている。また、AMLの代謝特性については十分な検討がなされておらず、特に病型による代謝特性の違いやそれが形作られる仕組みは明らかになっていない。

AMLの病型による代謝特性の違いとLSD1の役割に注目

遺伝子の機能(発現)のon/offは、遺伝情報を担うゲノムに印付けされた「エピゲノム」によって調節されている。DNAのメチル化や、DNAが巻きついているヒストンタンパク質のメチル化などの化学修飾がエピゲノムを形作る「印」として働いている。がん細胞と正常細胞ではエピゲノムに多くの違いがあり、遺伝子発現パターンが大きく異なっていることが知られている。

研究グループはこれまでに、メチル化されたヒストンからメチル基を除去する働きを持つ脱メチル化酵素であるLSD1が、さまざまな細胞種でエネルギー代謝の調節に関わることを明らかにしている。一例として、LSD1が肝がんにおいて、がん細胞の典型的な代謝型である好気的解糖を促進することを明らかにした。

これらの状況を踏まえて、LSD1がAML細胞の代謝調節に関わる可能性を検証することにした。これまでに、LSD1阻害剤がAMLの治療に有効である可能性が示されているが、病型による有効性の違いについてはあまりわかっていなかった。そこで、研究グループではAMLの病型による代謝特性の違いとLSD1の役割に注目した。

赤芽球性白血病でLSD1と解糖系の遺伝子が高発現

はじめに、AML患者やAML由来の培養細胞株の遺伝子発現データベースの解析を実施。AMLの中でも赤芽球性白血病においてLSD1と解糖系の遺伝子の発現が共に高いことがわかった。そこで、赤芽球性白血病細胞株を用いてLSD1の機能阻害試験を行ったところ、LSD1が細胞内へのグルコース取り込みと解糖系を促進していることもわかった。

次に、統合オミクス解析を行い、解糖系のほか、正常な赤血球の特徴的代謝経路であるヘム合成もLSD1によって活性化されていることを突き止めた。そのメカニズムとして、LSD1が赤血球系転写因子であるGATA1タンパク質の分解を防ぐことで、解糖系およびヘム合成遺伝子発現を活性化させることがわかった。

LSD1による細胞系譜制御がAMLの代謝型の多様性を生み出す可能性

さらに、LSD1機能阻害下では、いずれも白血球の顆粒球・単球系の転写因子であるCEBP/αの発現が劇的に上昇し、GATA1による代謝制御を阻害することがわかった。これらの結果から、LSD1が血液細胞系譜に関わる転写因子のバランスを調節することにより、赤芽球性白血病に特徴的な代謝表現型を生み出すことが明らかになった。

加えて、AMLのさまざまな病型を網羅した臨床データの解析から、LSD1、、解糖系・ヘム合成遺伝子の発現が有意な正の相関関係を示すことがわかった。このことは、LSD1による細胞系譜制御がAMLの代謝型の多様性を生み出す可能性を示唆しているという。

LSD1阻害薬と代謝経路を標的とした薬剤の併用、新たな治療戦略になるか

今回の研究成果は、白血病の進展に関わる代謝遺伝子制御メカニズムの一端を解明するものであり、LSD1が多く発現している赤芽球性白血病患者に対して、従来の治療法に加えてLSD1阻害剤と代謝標的薬を併用することで、高い治療効果が得られる可能性がある。また、「現在臨床試験が行われているLSD1阻害薬の効果が期待できる患者を選定するための重要な手掛かりであると考えられる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 子の食物アレルギーは親の育児ストレスを増加させる-成育医療センター
  • 認知症のリスク、歯の喪失だけでなく咀嚼困難・口腔乾燥でも上昇-東北大
  • AI合成画像による高精度な「網膜疾患」の画像診断トレーニング法を開発-広島大ほか
  • 腹部鏡視下手術の合併症「皮下気腫」、発生率・危険因子を特定-兵庫医大
  • 自閉スペクトラム症モデルのKmt2c変異マウス、LSD1阻害剤で一部回復-理研ほか