医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 腸内細菌叢が作り出す複雑な脂質多様性を解明する手法を開発-理研ほか

腸内細菌叢が作り出す複雑な脂質多様性を解明する手法を開発-理研ほか

読了時間:約 3分24秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年04月30日 AM11:25

腸内細菌叢が産生する未知の分子を捉えるのに適したノンターゲットリピドミクスを実施

理化学研究所()は4月28日、未知代謝物を含めた網羅的な解析が可能なノンターゲット質量分析法と、未知分子の構造推定を支援するMolecular spectrum networking技術を組み合わせることで、腸内細菌叢が作り出す複雑な脂質多様性を解明する新しいリピドミクス解析手法を開発したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センターメタボローム研究チームの有田誠チームリーダー、岡橋伸幸客員研究員、安田柊研修生(研究当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」および「STAR Protocols」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

腸内細菌は哺乳類とは異なる代謝経路を持ち、それらが産生するユニークな代謝物が宿主の生体恒常性の維持や疾患の発症に関わっていると考えられている。特に、菌体表層を覆う脂質成分には、宿主のパターン認識受容体を介して炎症を引き起こす分子が数多く知られている。これらの脂質には、炭素鎖の長さや二重結合の位置、立体構造などの違いによって数万~数十万に上る多様な分子種が存在し、その構造的な差異が受容体との親和性を左右する。この構造の特殊性と多様性ゆえに、これまで腸内細菌叢が形成する脂質の全体像を捉えることはできなかった。

研究グループは今回、マウスの腸内細菌を対象に、質量分析によるノンターゲットリピドミクスを実施した。従来は特定の分子の検出に特化したターゲット解析が汎用されてきたのに対し、ノンターゲット解析では、あらかじめ分析対象を限定する必要がなく、腸内細菌叢が産生する未知の分子を捉えるのに適しているという。

Molecular spectrum networking技術で互いに似た構造を持つ分子群を特定

まず、マウスの糞便から抽出した総脂質を液体クロマトグラフィー四重極飛行時間型質量分析装置(LC-QTOF/MS)で分析したところ、未知分子も含めて約6,100個に及ぶ包括的なMS/MSスペクトルデータを取得できた。既存のデータベースを用いて、これらの分子の同定を試みたところ、90%が同定できなかった。これは、多くの未同定分子が腸内細菌によって産生されていることを意味するという。

これらの中から腸内細菌が産生する脂質を効率良く同定するため、「似た構造の脂質分子は似たMS/MSスペクトルを示す」という性質に注目し、従来天然物の構造解析に利用されてきたMolecular spectrum networking技術をリピドミクスデータに応用した。この方法は、LC-QTOF/MSで取得した任意の2つのMS/MSスペクトル間の類似度を計算し、高い類似性を示すイオン同士を線でつないだネットワークを作成することで、脂質分子群の全体像を可視化するもの。これにより、構造未知のままでも、似たMS/MSスペクトルを示すイオンを分類することが可能となる。これを適用することで、構造類似分子からなると推定されるクラスターが複数発見された。

新しい腸内細菌脂質「」を発見、その産生に関わる細菌も推定

次に、このデータに、抗生物質カクテル投与で腸内細菌を死滅させたマウスの糞便の分析結果を統合することで、腸内細菌が産生に関わる脂質を炙り出した。抗生物質投与で量が減少したイオンは、腸内細菌由来の代謝物であることが強く示唆されるため、優先的に構造解析するべき対象として絞り込むことができる。これらのMS/MSスペクトルを読み解くと、エーテル結合含有グリセロ脂質、極性頭部にホスホエタノールアミンやホスホイノシトールなどの修飾を持つスフィンゴ脂質、炭素-硫黄原子が直接結合したスルホノリピド、脂肪酸がアミノ酸で抱合されたN-アシルアミドなど、腸内細菌依存的に変動する多様な構造の脂質分子群であることが明らかになった。

また、これらの中から、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸がα位にヒドロキシ基のある極長鎖脂肪酸とエステル結合した化合物と推定された非常にユニークな新しい脂質Acyl Alpha-Hydroxy Fatty Acid(AAHFA)を見出した。そして、実際に有機合成し、その推定構造が正しいことを実証した。

さらに、今回見出した腸内細菌依存的に変動する脂質の産生に関わる細菌種を推定するために、特定の菌群だけを死滅させるさまざまな抗生物質を別のマウスに与え、腸内細菌叢にバリエーションのあるマウスを作製。このマウスの糞便に、ノンターゲット質量分析と16S rRNAシーケンス解析を適用し、脂質分子と細菌種の相関解析を行うことで、今回見出した脂質群が、それぞれ特定の菌種群と正の相関を示すことが明らかになった。

がん、、アレルギーなどで変動する細菌種の意義を理解することにもつながる可能性

今回の研究成果により、ノンターゲット質量分析法とMolecular spectrum networking技術を組み合わせることで、複雑な構造の脂質が腸内細菌によって産生されていることが明らかにされた。このように従来のターゲット解析では見落とされていた分子群を正しく捉えることは、がん、肥満、アレルギーなど種々の疾患で変動する細菌種の意義を理解することにつながると考えられる。

「本研究で開発した手法は、そのような菌叢の変化を脂質の量および質の変化として俯瞰的に捉えることを可能にする技術であり、腸内細菌の関与する生命現象を支配する機能性の実行因子を特定することに寄与すると期待できる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 哺乳類の原腸胚形成に重要な遺伝子座を発見-筑波大ほか
  • アルツハイマー病の脳内炎症抑制につながる共役リノール酸を発見-北大ほか
  • 抗PD-1抗体による甲状腺副作用の発症メカニズムをマウスで明らかに-名大
  • 細胞外小胞が骨肉腫を進展させるメカニズムを解明-金沢大
  • 高齢者の「クローン性造血」、成因と血液がん進展メカニズムを解明-東大医科研ほか