医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 造血幹細胞の老化メカニズムを無処置移植実験により発見-東大医科研ほか

造血幹細胞の老化メカニズムを無処置移植実験により発見-東大医科研ほか

読了時間:約 3分11秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年11月26日 AM11:45

若齢骨髄ニッチ環境下に加齢造血幹細胞を戻すと若返るかをマウスで検証

東京大学医科学研究所は11月25日、加齢造血幹細胞と無処置移植に着目し、世界で初めて、加齢造血幹細胞の遺伝子発現()の変化が加齢に伴うニッチの形質変化に大きく起因することを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所幹細胞分子医学分野の栗林和華子特任研究員、大島基彦助教、岩間厚志教授らの研究グループが、千葉大学の金田篤志教授らの研究グループ、九州大学の伊藤敬教授、三浦史仁准教授らの研究グループとの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Journal of Experimental Medicine」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

老化とは、組織の機能が時間経過に伴い徐々に低下していくプロセスであり、組織再生の担い手である幹細胞に生じた構造的変化や、幹細胞を取り巻く環境の変化がその原因として注目されている。全ての血球系を作り出す血液細胞の大もとの細胞である造血幹細胞は骨髄ニッチに存在し、さまざまな状況においても血液細胞を供給し続けることで造血システムを維持しているが、個体の加齢に伴い、造血幹細胞は内因性・外因性の多様なストレスに曝露され、質的・量的な劣化を呈する。・造血システムの機能低下は個体全体の機能低下に直結することから、造血幹細胞に焦点を当てた加齢研究はマウスにおいて骨髄移植を用いたモデルを活用し、活発に研究が行われてきた。しかし、加齢が造血幹細胞に与える影響の全容はいまだ明らかにされていない。

近年、従来の骨髄移植モデルに替わって、放射線照射などの前処置を行わずにマウスへ大量の造血幹細胞を移植する移植法が確立された。通常の骨髄移植では前処置によって骨髄ニッチが本来の構造や機能を失ってしまうが、無処置移植によってレシピエントの骨髄ニッチ環境を正常に維持したままドナー(提供者)造血幹細胞を移植することが可能となり、今まで不明であった健常な骨髄ニッチが造血幹細胞に与える影響を解析できるようになった。今回、研究グループは、加齢に伴う骨髄ニッチの変化が造血幹細胞の機能低下の一因となることに注目し、若齢骨髄ニッチ環境下に加齢造血幹細胞を戻せば若返りをするのかについて検討を行った。

加齢造血幹細胞の機能は若齢骨髄ニッチに移されても改善しない

まず、20か月齢の加齢マウスから分取した数万個の加齢造血幹・前駆細胞を8週齢の若齢マウスへ放射線照射などの前処置なしに移植。2か月の経過観察後、骨髄細胞を回収しフローサイトメトリー解析を行った。比較対象として10週齢の若齢マウス造血幹細胞の移植も実施。さらに、生着した加齢造血幹細胞を分取しRNAシークエンス解析とDNAメチル化解析を行った。その結果、生着した加齢造血幹細胞は若齢造血幹細胞と比較して造血細胞を生み出す能力が低く、若齢骨髄においても多能性前駆細胞への分化が持続的に障害されるとともに、分化の方向性が骨髄球に偏っていることが明らかとなった。以上のことから、加齢造血幹細胞は若齢骨髄ニッチに移されても、その幹細胞機能は改善しないとわかった。

加齢造血幹細胞を若齢骨髄ニッチに移すと、遺伝子発現パターンが若くなる

次に、トランスクリプトームの変化を調べるため、RNAシークエンス解析をもとに主成分分析を実施。その結果、加齢造血幹細胞と若齢造血幹細胞の遺伝子発現プロファイルには明らかな違いが認められたが、若齢骨髄ニッチに移植された加齢造血幹細胞は若齢の遺伝子発現パターンに大きく戻ることが明らかとなった。この移植実験系において可逆的に変動する加齢関連遺伝子は、代謝に関連する遺伝子が多く含まれており、加齢に伴う造血幹細胞の代謝性変化は骨髄ニッチの変化に大きく依存する可能性が示唆された。

加齢造血幹細胞のエピゲノムは若齢骨髄ニッチにおいても大きな変化なし

最後に、加齢関連遺伝子の発現制御に重要であるDNAメチル化の変化を調べるために、全ゲノムバイサルファイトシークエンス解析を実施。造血幹細胞の加齢に伴うDNAメチル化の変化は、造血幹細胞の機能変化に大きく寄与することが知られている。しかし、加齢に伴うDNAメチル化変化は若齢骨髄ニッチ環境によっても若齢のパターンに戻ることはなかった。つまり、加齢に伴う造血幹細胞の機能低下に、トランスクリプトームの変化よりもエピゲノムの変化の方がより大きく寄与しており、このような変化は骨髄ニッチに依存しないことが示唆された。

今回の研究で、造血幹細胞の加齢に伴う細胞内変化は骨髄ニッチの状態に関わらず強固に保持されることが示された。さらに、このような加齢に伴う造血幹細胞の機能低下には、遺伝子発現変化よりもエピゲノム変化の方が不可逆的な変化としてより大きく寄与していることが明らかとなった。加齢に伴い、特定のエピジェネティックな変化を持つ造血幹細胞クローンが選択され、造血幹細胞全体の機能に変化が生じている可能性があるという。研究グループは、「今後さらに詳細な解析を行うことで、加齢に伴う造血幹細胞の機能に不可逆的な影響を与えるメカニズムが明らかになると期待される」と、述べている。

 

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • うつ病患者、「超低周波変動・超微弱磁場環境治療」で抑うつ症状が改善-名大
  • 食後インスリン分泌に「野菜を噛んで食べること」が影響する機序解明-早大ほか
  • 難治性骨折の治癒促進するプラズマ照射法を開発、損傷部強度3.5倍に-大阪公立大
  • 5歳児の2割弱に睡眠問題あり、弘前市の未就学児の調査結果-弘前大
  • 水虫治療薬テルビナフィン耐性に関与の白癬菌タンパク質同定-武蔵野大ほか