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新たな乳腺腫瘍特異的バイオマーカー「MAN2C1」を発見-東大

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2020年11月10日 PM12:15

乳がんと良性腫瘍を術中に迅速識別できる手法の開発へ

東京大学は11月6日、乳がんの新たなバイオマーカーとして「2C1」()を発見し、肉眼では識別の難しい微小な乳がんを迅速かつ高感度に光らせることに成功したと発表した。これは、同大大学院薬学系研究科・医学系研究科の浦野泰照教授、同医学系研究科・生体物理医学専攻生体情報学分野の神谷真子准教授、藤田恭平博士課程学生らの研究グループによるもの。研究成果は、「ACS Central Science」に掲載されている。

乳がんは、女性で最も罹患率の高いがんで、早期では手術による摘出が行われる。しかし、微小ながんの取り残しによる再発や、術中の良性腫瘍との識別などが患者の予後を左右する課題となっていた。外科医が適切な切除範囲を術中に判断するために、乳がん組織だけを迅速かつ高感度に可視化できる手法や、乳がんと良性腫瘍を術中に迅速識別できる手法の開発が強く望まれている。

研究グループはまず、乳がんの糖質加水分解酵素に新たに着目し、12種類の糖質加水分解酵素の活性を高感度に光らせて検出する蛍光試薬「」を開発した。これらの蛍光プローブは分子骨格に糖基質が組み込まれている状態では無色・無蛍光性の分子だが、標的の糖質加水分解酵素と反応すると、糖との結合が加水分解され蛍光性の分子へと変換される。


画像はリリースより

新たに開発した蛍光プローブは乳がんで高発現する酵素「α-マンノシダーゼ2C1」を識別

開発した蛍光プローブ群を、乳がん患者から摘出した乳がん組織と正常乳腺組織に添加して、蛍光変化を比較評価。その結果、糖質加水分解酵素の1つである「α-マンノシダーゼ」の活性を光らせる蛍光プローブにより、乳がん組織を正常組織と見分けて、高い感度・特異度で光らせることが可能であることを発見した。

さらに、α-マンノシダーゼの中でも「α-マンノシダーゼ2C1」(MAN2C1)と呼ばれるタイプの酵素が乳がん組織を光らせる鍵となっていることを突き止め、この酵素の活性と発現量が正常組織に比べて乳がん組織で上がっていることを新たに発見した。MAN2C1はこれまで乳がんにおいて全く着目されてこなかった酵素。今回初めてその標的バイオマーカーとしての有効性が明らかとなった。加えて、α-マンノシダーゼ活性を光らせる試薬は、がんが疑われる部位へ散布するだけで、肉眼では確認できない1mm以下の微小な乳がん組織を10分程度で迅速かつ精確に光らせることが可能であることもわかった。

乳腺線維腺腫と乳がんを識別できる方法を開発

さらに、乳腺の良性腫瘍である乳腺線維腺腫(FA)ではMAN2C1の活性が乳がんよりも高い傾向にあることを見出した。この結果から、良性腫瘍FAに強く応答するMAN2C1を標的とした緑色蛍光プローブと、(悪性腫瘍)と良性腫瘍において同様に応答することが知られる「γ-glutamtyltranspeptidase」(GGT)と呼ばれる酵素を標的とした赤色蛍光プローブの双方を組み合わせることで、悪性腫瘍と良性腫瘍を異なる蛍光色で識別する技術を開発した。実際にこれらの2つの蛍光プローブをカクテルにして両腫瘍に散布したところ、悪性腫瘍組織は赤色に、良性腫瘍組織は黄色に可視化され、両者を酵素活性の差に基づいて異なった色で識別することに成功した。

今回開発したMAN2C1の活性を光らせる蛍光プローブは、迅速かつ高い精度で微小な乳がんを光らせることが可能であり、乳がん手術で切除した部位の断端などに散布することで、がんの取り残しがないかをその場で迅速に確認する試薬として応用できる可能性がある。「開発した蛍光プローブ群は、乳がん以外のがん種においても同様な評価を実施することで、新たながん組織を光らせる蛍光プローブと、その標的酵素の探索に応用できることが期待される」と、研究グループは述べている。

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