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日本における喫煙率の社会格差、男女とも「若い世代」で大きい-東大ほか

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2020年07月03日 PM12:00

喫煙率の社会格差の経年変化を国民生活基礎調査データから分析

東京大学は7月1日、喫煙率の社会格差の経年変化を国民生活基礎調査のデータを用いて分析した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科社会医学専攻公衆衛生学分野の田中宏和客員研究員と小林廉毅教授、オランダ・エラスムス大学医療センターのヨハン・マッケンバッハ(Johan P. Mackenbach)教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」(オンライン早期公開版)に掲載されている。


画像はリリースより

喫煙率は社会経済的要因(職業階層・教育歴・収入)と強く関連していることが日本を含め国際的に広く報告されている。例えば、職業階層が低い、教育歴が短い、収入が少ない人は喫煙率が高い。喫煙は健康格差を形成する要因となり、欧州の研究によれば、社会経済的要因による死亡率格差の約30%は喫煙によるものと推計されている。欧米では喫煙の社会格差の統計をもとに、その是正のための対策が健康政策として提起・実施されている。しかし、日本ではその格差の経年変化についての調査・報告がないため、格差是正を考慮した喫煙対策がなされていない。

2001~2016年までの3年ごとに職業階層・教育歴別の喫煙率を算出

今回研究グループは、日本の社会経済的要因による喫煙率の格差(喫煙率の社会格差)の変化を分析した。全国調査である国民生活基礎調査の匿名化データ(各年度約70万人分)を厚生労働省の許可を受け分析し、2001~2016年までの3年ごとに職業階層・教育歴別の喫煙率を算出。職業階層は国際比較に用いられるErikson-Goldthorpe-Portocarero(EGP)階層分類を用いて、「上級熟練労働者」(人口割合:男性38.1%、女性25.9%)、「下級熟練労働者」(人口割合:男性26.7%、女性58.4%)、「非熟練労働者」(人口割合:男性23.5%、女性10.4%)、「農業従事者」(人口割合:男性2.5%、女性1.8%)、「自営業者」(人口割合:男性9.3%、女性3.6%)の5つに区分し、25~64歳について男女別に分析した。

「上級熟練労働者」には管理職・専門職、「下級熟練労働者」には事務職・販売職・サービス職、「非熟練労働者」には生産工程従事者・運転従事者などが含まれる。教育歴は「中学卒業者」(25~64歳人口割合:男性5.9%、女性4.3%)、「高校卒業者(専門学校を含む)」(人口割合:男性50.9%、女性55.5%)、「大学以上卒業者(短大・高専を含む)」(人口割合:男性43.2%、女性40.2%)の3つに区分した。教育歴は25~64歳と65~94歳の2群について男女別に2010~2016年の変化を分析した。

喫煙の質問項目に対して「毎日吸っている」と「時々吸う日がある」の回答を喫煙ありとし、喫煙率を職業階層・教育歴別に算出し、経年変化の分析のために年齢調整を行った喫煙率を算出した。

「上級熟練労働者」と「非熟練労働者」の比較、男性で喫煙率の差が拡大

研究の結果、2016年の職業階層別喫煙率(25~64歳)は、男性の「上級熟練労働者(管理職・専門職)」で32.5%、「非熟練労働者」で47.1%であり、女性では「上級熟練労働者(管理職・専門職)」で10.8%、非熟練労働者で18.7%だった。

2016年の教育歴別の喫煙率(25~64歳)は、男性の「中学卒業者」で57.8%、「高校卒業者(専門学校を含む)」で43.9%、「大学以上卒業者(短大・高専を含む)」で27.8%であり、女性では「中学卒業者」で34.7%、「高校卒業者(専門学校を含む)」で15.9%、「大学以上卒業者(短大・高専を含む)」で5.6%だった。

職業階層において「上級熟練労働者(管理職・専門職)」と「非熟練労働者」を比較すると、男性で2001年の喫煙率の差は11.9%(95%信頼区間:11.0-12.9)、比は1.24(95%信頼区間:1.22-1.26)だったのが、2016年の差は14.6%(95%信頼区間:13.5-15.6)、比は1.45(95%信頼区間:1.41-1.49)となり、格差は拡大していた。

人口全体の喫煙率は低下しているものの、喫煙率の社会格差はわずかに拡大

教育歴において「中学卒業者」と「大学以上卒業者(短大・高専を含む)」を比較すると、男性で2010年に喫煙率の差は27.0%(95%信頼区間:25.6-28.5)、比は1.79(95%信頼区間:1.74-1.85)だったのが、2016年に差は30.0%(95%信頼区間:28.4-31.7)、比は2.05(95%信頼区間:1.98-2.12)となり、格差は拡大していた。

職業階層・教育歴の人口構成を考慮した分析(Slope Index of Inequality、Relative Index of Inequalityなど)でも同様に格差の拡大を示す変化が認められ、女性でもこれらの傾向は同じだった。したがって、人口全体の喫煙率は低下しているものの喫煙率の社会格差は縮小しておらず、わずかに拡大していることが明らかになった。また、若い世代(25~34歳)で、より大きな社会格差のあることが確認された。

日本の喫煙対策、喫煙率が高い集団に的を絞った禁煙補助策などについても議論が必要

健康格差の研究では、人口全体の健康指標の変化、絶対的な格差の変化、相対的な変化の三要素を読み解くことが重要だ。今回の研究では、喫煙率について、人口全体の喫煙率の低下、絶対的な格差の持続、相対的な格差の拡大を明らかにした。

日本では喫煙の社会格差縮小に向けた目標値の設定と公衆衛生上の施策がなく、このままでは健康格差が拡大する懸念がある。したがって、日本の喫煙対策では全体的な喫煙率の低下のみならず、喫煙率の社会格差縮小の目標設定や喫煙率が高い集団に的を絞った禁煙補助策などについても議論が必要だという。

また、企業の採用活動等において受動喫煙防止や生産性の観点から非喫煙者を選好または優遇する動きがある。今回の研究で示されたように、喫煙率の社会格差が特に若い世代において存在することを考慮した慎重な採用方針の議論がなされるべきであると考えられるという。

研究グループは今回の研究結果について、日本における喫煙率の社会格差が縮小していない傾向を明らかにするとともに、将来の健康格差を予防・縮小するための喫煙対策の重要性を改めて示唆するものだとし、今後の展望として欧米諸国との国際比較を行い、日本のおける喫煙率の社会格差の特徴やその要因の分析を進め、健康格差縮小のための施策につなげていきたいとしている。

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