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エストロゲンとDNA修復能低下で乳がん初期の異形成が起こることを明らかに-KBICほか

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2020年01月29日 PM12:00

エストロゲンとDNA二重鎖切断の修復能が乳腺異形成に関与するかを解析

(KBIC)は1月23日、モデルマウスを用いた実験から、新しい乳がん誘導系でエストロゲンによる発がんメカニズムの一端を解明したと発表した。この研究は、同機構先端医療研究センター・老化機構研究部の伊東潤二研究員(兼:京都大学大学院医学研究科客員研究員)、・医学部の戸井雅和教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「iScience」にオンライン掲載されている。

乳がんの罹患数は多く社会問題になっている。しかし、乳がんの発がんメカニズムがわからないため、効果的な予防法が開発できていない。乳がんは正常の乳腺に発生し、その乳管は、内側の乳腺上皮細胞の層と外側の筋上皮細胞の層とによる二相性が保たれている。そのさらに外側を基底膜が覆う。一方、異形成では、二相性が乱れ、また、乳腺上皮細胞の増殖がみられる。筋上皮細胞層と基底膜が壊れ、乳腺上皮細胞が外側に浸潤することもある。異形成は悪性のがんに進行するといわれている。しかし、乳腺の異形成、つまり発がんが起こるメカニズムには、不明な点が多い。

エストロゲンは女性ホルモンの 1 つで、乳がんの発がんに関わるといわれている。エストロゲンは細胞内でエストロゲン受容体に結合し、下流の遺伝子の発現を制御する。エストロゲン受容体が発現を活性化させる遺伝子に、がんに関わるMyc遺伝子が含まれている。また、エストロゲン受容体が遺伝子発現を制御する時に、DNAの二重鎖切断が観察されている。そこで研究グループは、エストロゲンとDNA二重鎖切断が異形成に関わるのか、また、そのメカニズムはどうなっているのかを調べた。

+DNA 修復能の低下<Mycの高発現<乳腺上皮細胞の増殖<異形成

画像はリリースより

はじめに、scidマウスと野生型マウスにエストロゲンを投与。scidマウスは、「DNA-PKcs」と呼ばれるDNA二重鎖切断の修復に関わるタンパク質が遺伝的に欠失している。両マウスで投与後のエストロゲン血中濃度に差はなく、乳腺上皮細胞でDNA二重鎖切断が確認された。しかし、scidマウスでは、DNA二重鎖切断の修復の遅延が観察された。続いて、異形成が生じるかどうかを調べるために、scidマウスにエストロゲンを30日間連続投与。結果、約20%の乳管で二相性の乱れを観察し、約6%の乳管で乳腺上皮細胞の浸潤が確認した。一方、生理食塩水を投与した対照scidマウスでは、乳管の異常はなかった。これらの結果から、エストロゲンとDNA修復能の低下が異形成を引き起こすことがわかった。

続いて、上記実験系を用いて細胞増殖の指標とされているタンパク質の発現を調査。すると、乳腺上皮細胞の増殖が活発になっていることがわかった。また、乳腺上皮細胞の増殖を反映する乳管の小さな分岐が観察された。これに似た現象が、Mycの過剰発現マウスで観察されたことが、他のグループから報告されている。一方、本研究では、DNA修復能を低下させた培養細胞で、エストロゲンによるMycの発現誘導が強まることを観察。詳しく調べたところ、scidマウスでエストロゲン投与によりMycの発現が高まることがわかった。さらに Myc阻害剤をエストロゲンと同時に投与することで乳腺上皮細胞の増殖を抑制し、異形成も抑えることもできた。これらの結果から、「エストロゲンとDNA 修復能の低下→Mycの高発現→乳腺上皮細胞の増殖→異形成」という発がんメカニズムが明らかになった。

もう1つの女性ホルモン「」によるMycの発現抑制を確認

もう1つの女性ホルモン「プロゲステロン」によるエストロゲン受容体の機能阻害がこれまでに報告されている。プロゲステロンが異形成を抑えている可能性を調べるため、scid マウスにエストロゲンとプロゲステロンを同時投与し観察した。すると、プロゲステロンによる Mycの発現抑制が観察され、また異形成も抑えられていたことがわかった。

今回確立した実験系を応用すると、発がんメカニズムの詳細を研究できるようになる。特別な装置や手技を必要としないため、世界中のどこでもこの技術を取り入れることができる。「本研究により乳がんの発がんメカニズムの研究が活発になり、乳がんの予防法が確立されることが期待される」と、研究グループは述べている。

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