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がんの特徴をAIが自力で獲得、再発診断精度を向上する新たな特徴も発見-理研ほか

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2019年12月20日 PM12:45

」で未知情報の獲得に挑戦

(理研)は12月18日、医師の診断情報が付いていない病理画像から、がんに関わる知識をAIが自力で獲得する技術を開発し、がんの再発の診断精度を上げる新たな特徴を見つけることに成功したと発表した。この研究は、理研革新知能統合研究センター病理情報学チームの山本陽一朗チームリーダー、日本医科大学泌尿器科の木村剛准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国のオンライン科学雑誌「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより

近年、人工知能(Artificial Intelligence, )の持つ高い可能性を医療に応用するための研究が盛んに行われている。一方で、現在のAI技術の主流であるディープラーニング(深層学習)では、学習にビッグデータを必要とするため、医師の診断情報が付いた大量の医療画像をどのように集めるかが、実用化に向けた課題となっていた。また、AIにおける解析根拠はブラックボックスだといわれているが、医療への応用には、AIの解析根拠が重要視されており、現存する医学知識を上回る新知見の獲得のためにも、病理画像のように豊富な情報を含むデータから、機械学習を通して「人間が理解できる情報」を自動で取得する技術が求められていた。

今回研究グループは、複数のディープラーニングと非階層型クラスタリングを用いることで、病理画像から人間が理解できる情報を自動で取得する新たなAI技術の開発に成功。医療分野では今まで、医師が教えた診断をAIが学習する、すなわち教師以上の分類はできない「教師あり学習」が主に使用されてきたが、今回の研究では医師の診断を必要としない「教師なし学習」により獲得した特徴を、人間が理解できるように変換。再発期間のみを用いた最適な重み付けをAIに行わせることで、これまで不可能であったがんの未知なる情報の獲得を目指した。

「がん領域以外の間質の変化」を再発関連の特徴としてAIが発見

この新しい技術を、医師の診断情報が付いていない100億画素を超える全包埋・全割した前立腺の病理画像(AI学習用の分割画像にすると、合計約11億枚に相当)に対して適用したところ、病理画像と予後情報のみから、詳細に分類されたがんの情報をAIに自動で抽出させることに成功。このAIが作成した分類には、現在世界中で使用されているがん分類(グリソンスコア)が含まれており、さらに、これまで専門家も気づいていなかった「がん領域以外の間質の変化」も、がんの再発の診断精度を上げる特徴として読み取られていた。この、AIにより見つけられた病理学的特徴は、今回の報告論文の中で、AIが作成した初めての病理画像アトラスとして閲覧できる。

次に、AIが見つけたこれらのがんの特徴が再発予測に役立つかを確認するため、日本医科大学病院の20年間分の1万3,188枚の前立腺の病理画像(AI学習用の分割画像にすると約860億枚に相当)を用いて、がんの予後予測の検証を実施。その結果、現在世界中で使用されている前立腺がんの診断基準(AUC = 0.744)よりも高い精度(AUC = 0.820)で再発予測ができることが判明した。

汎用性を確認、「AI+医師」でより精度が向上

さらに、日本医科大学病院の症例だけを用いてAIに学習させた結果が、聖マリアンナ医科大学病院と愛知医科大学病院においても利用できるかどうかを調べた。これら2つの大学病院の2,276枚の前立腺の病理画像(AI学習用の分割画像にすると約100億枚に相当)に対して検証したところ、日本医科大学における予測精度とほぼ同等の再発予測ができることがわかった(AUC = 0.845)。これは、今回開発された技術により、AIが病院や大学といった施設や地域を越えて、一般化された情報を学習したことを示している。

最後に、AIが見つけた特徴と病理医の診断を組み合わせて再発予測をしたところ、それぞれが単独で予測するよりも、さらに予測精度が上がった(施設内検証:AUC = 0.842、多施設による検証:AUC = 0.889)。この結果は、AIと人間は病理画像の解析に対して得意とする点が異なり、お互いに補い合うことで精度向上につながることを示している。

医療においてAIを安心して使用するためには、医師が理解可能な根拠を示すことができる技術が不可欠。さらに、情報量に富んだ画像から、人間が理解できる情報を引き出すことで、既存の基準を超えた新たな知識の獲得が可能になる。今回の研究成果は、手術後の高精度ながんの再発予測法として、個々に合った治療選択に貢献するとともに、画像から新たな知識を獲得するための自動解析手法として役立つもの。さらに、ブラックボックスといわれているAIの解析根拠をひも解く一歩として、医療において安心して使用できるAIの実現に貢献すると期待される。

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