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世界初、疾患特異的な腸内細菌の制御を可能とする新規粘膜ワクチンを開発-大阪市大ら

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2019年08月27日 AM11:45

複数の疾患が、腸内細菌の乱れと関連

大阪市立大学は8月23日、全身の粘膜において致死的な感染症だけでなく、疾患特異的な腸内細菌の制御へ応用できる新規粘膜ワクチンを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科ゲノム免疫学の植松智教授、藤本康介助教(東京大学医科学研究所国際粘膜ワクチン開発研究センター自然免疫制御分野を兼任)らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学雑誌「Gastroenterology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

次世代シークエンサーをはじめとしたゲノム解析技術の進歩に伴い、常在微生物叢解析(特に腸内細菌叢解析)が、盛んに行われるようになった。消化管をはじめとする粘膜面には、免疫グロブリンA(IgA)が多量に存在し、粘膜免疫防御機構の一端を担っているが、あらゆる粘膜面に対し、自在に抗原特異的IgAを誘導する技術はこれまで存在しなかった。

一方、近年では肥満、糖尿病、動脈硬化、、大腸がん、パーキンソン病などさまざま疾患において、腸内細菌叢の乱れと疾患との関係性が明らかにされてきた。実際に、疾患の発症と直接的に関わる腸内細菌も発見され、胃がんにおけるピロリ菌のように、疾患の発症予防のために除菌が期待されている。しかし、抗生物質は有益菌も殺傷してしまうため、腸内細菌の乱れを助長する可能性があり、病原常在腸内細菌だけを特異的に排除できる方法が求められている。

研究グループは今回、これまで行ってきた腸管粘膜固有層の樹状細胞やIgAの誘導メカニズム解析を基盤として、IgA誘導能を持つ腸管型の樹状細胞の末梢組織での誘導を検討した。

あらゆる粘膜で抗原特異的なIgAを誘導する方法を開発

今回の研究では、自然免疫受容体として知られているToll様受容体9番のリガンドであるCpG-ODNおよびDectin-1のリガンドであるcurdlan(細菌の菌体成分)を用いた新規粘膜ワクチンを開発。この粘膜ワクチンを用いると、全身のリンパ節に抗原特異的なメモリーB細胞が誘導され、粘膜面へ抗原を加えることで抗原特異的なIgAを自在に誘導することが可能となった。

肺炎球菌性肺炎は、日本における市中肺炎の最大の原因であり、致死的な感染症となり得ることが知られている。そこで、肺炎球菌抗原を用いて肺炎球菌に対するワクチンを作成し、肺炎球菌感染の制御について検討した。ワクチン接種6週間後に肺炎球菌抗原を経鼻投与した結果、気管支肺胞洗浄液中の抗原特異的なIgGとIgAが上昇することが判明。さらに、肺炎球菌を感染させると、同研究で開発した新規粘膜ワクチンを接種している群では、肺炎球菌の定着が阻害され、重篤な肺炎が起こらないことが明らかとなった。さらに、・糖尿病で増加することが報告されている腸内常在細菌「クロストリジウム ラモーサム」に特異的なワクチンを作成し、ヒト肥満者の糞便を定着させたノトバイオートマウスに接種したところ、・糖尿病モデルで有意な改善を示したという。

今回の研究成果である新規粘膜ワクチンの方法をヒトで実用化することにより、病原体の侵入門戸である粘膜において、強力な粘膜免疫応答を誘導でき、「発症する前に抑制する」という、全く新しいコンセプトのワクチンの開発が期待される。研究グループは、「このワクチンの方法を、疾患特異的な腸内細菌を標的として応用することで、これまで制御できなかった腸内細菌叢の乱れに関連するさまざまな難治性の疾患に対する新たな治療アプローチとして使える可能性が期待される」と、述べている。

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