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非染色かつ非侵襲で、細胞の分化状態の可視化に成功-理研

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2015年06月18日 PM03:30

ラマン散乱分光スペクトルによって細胞状態の変遷を可視化

理化学研究所は6月16日、ラマン散乱光の分光スペクトルを用いて、細胞の分化状態を非染色かつ非侵襲で識別し、細胞分化の途中過程における細胞状態の変遷を可視化することに成功したと発表した。


画像はリリースより

この研究は、理研の生命システム研究センター先端バイオイメージング研究チームの市村垂生研究員、渡邉朋信チームリーダー、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの藤田英明准教授らの共同研究チームによるもの。研究成果は、英オンライン科学雑誌「Scientific Reports」に、6月16日付けで掲載された。

近年、正常細胞とがん細胞との識別や良質な人工多能性幹細胞()の仕分けなど、細胞の種類や分化状態を判断するために、遺伝子やタンパク質発現・相互作用などの情報が主に使われてきた。しかし、これらの情報を得るためには、細胞を破砕するか、蛍光抗体で染色する必要があり、細胞を損傷なく識別する別の方法の開発が望まれていた。

物質に光を照射した際に、分子の固有周波数の光が散乱される現象をラマン散乱という。細胞はさまざまな物質で構成されているため、細胞個々のラマン散乱スペクトルは、構成される物質の種類や含有比によって異なる可能性があった。同研究チームはこれまでに、様々な用途に合わせて異なる細胞種間、あるいは、分化前後の細胞においてラマン散乱分光スペクトルが異なることを示してきていた。加えて、ラマン散乱分光スペクトルから複数の細胞種を区別する解析方法を考案し、細胞の種類や状態を識別するための細胞指紋として適用できることを示したという。

iPS研究やがん細胞、再生医療の現場での応用に期待

今回研究チームは、この細胞指紋技術を用いて、細胞分化における細胞状態の変化を可視化することを試みた。胚性幹細胞(ES細胞)の初期分化、筋肉分化の過程におけるラマン散乱光の分光スペクトルを調べたところ、分化途中過程は、分化前後にくらべて、細胞が不安定な状態であり、ラマン散乱光の分光スペクトルが座標上で「広く分布」することを発見したという。

この技術は、細胞に光を当てた時の散乱光を解析するだけで、細胞の種類・状態を識別できるのが特徴。細胞を破砕する必要がなく、細胞に対する毒性が低いこのラマン散乱分光スペクトルによる細胞の状態識別は、がんの画像診断や、がん摘出手術時のがん組織の識別などでも使用されている。iPS研究やがん細胞の判別診断のみならず、再生医療の現場での幅広い応用が期待されている。

▼外部リンク
理化学研究所 プレスリリース

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