リポソーム製剤で幹細胞治療を代替できるか?
神戸医療産業都市推進機構(FBRI)は11月28日、シアリルルイスX標識したグルコース内包リポソーム製剤が、マウス脳梗塞モデルにおいて有効性を示すことを発見したと発表した。この研究は、同機構に所属する先端医療研究センター脳循環代謝研究部の田口明彦部長らの研究グループと、群馬大学らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Stem Cell and Development」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
造血幹細胞を使った幹細胞治療では、投与した幹細胞が、栄養分が不足している虚血領域の血管内皮細胞に対してギャップ結合を介してグルコースなどの栄養分を供与することで、再生が開始されることが明らかになっている。
ギャップ結合とは、接触する細胞同士をつなぎ、イオンや分子量1,500以下の小さい分子(水溶性低分子)を通過させる細胞間結合のこと。細胞の細胞膜にはコネクソンと呼ばれるトンネルのようなタンパク質が存在し、接触する細胞のコネクソン同士がつながると、イオンや小さい分子が隣接細胞の細胞質から細胞質へと濃度勾配に従い直接移動する。
一方、リポソームとは細胞膜の構成成分であるリン脂質を使って作ることのできる人工細胞のような微粒子で、内部にさまざまな成分を閉じ込めることができる。膜成分を工夫することにより、必要な場所に届けることも可能だ。
幹細胞治療と同様に、脳血流改善や神経機能の回復促進を脳梗塞モデルマウスで確認
今回の研究では、脳梗塞領域に集積するような膜表面加工をしたリポソームを使用した。グルコースを内包した虚血領域への指向性のあるシアリルルイスX標識リポソーム製剤を用いることで、栄養分が不足している虚血領域の血管内皮細胞に、エンドサイトーシスによりグルコースなどの栄養分を届けることが可能になる。
さらにマウス脳梗塞モデルを使った実験で、幹細胞治療と同様に脳血流の改善や神経機能の回復が促進されることを明らかにした。
人工細胞使用によるコスト削減で、再生医療の実現・普及に期待
幹細胞を使った再生医療は、細胞の調整に多大なコストが必要であり、品質管理や規格化も難しいため、これまであまり普及が進んでいなかった。「今後は工場での製造も可能な人工細胞を用いることで、再生医療の実現および普及が期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・神戸医療産業都市推進機構 プレスリリース


