増加する変形性股関節症、インプラント選択のエビデンス不足が課題
千葉大学は10月28日、人工股関節全置換術(THA)で用いる太ももの骨(大腿骨)のインプラント部分(ステム)の形状や素材が、術後早期に起こりやすい人工股関節周囲の骨折(POPFF)にどのような影響を及ぼすかを研究し、ハイドロキシアパタイト(HA)という素材で特殊な表面加工をした「カラー(襟)付きHAステム」は、一般的に使用されている、断面がくさび(ウェッジ)形状で細長い「テーパーウェッジ型ステム」よりも、早期POPFFの発生率を有意に低減する効果があることがわかったと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の平沢累特任助教らの研究グループと船橋整形外科病院の老沼和弘院長らとの共同研究によるもの。研究成果は、「The Bone & Joint Journal」に掲載されている。

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変形性関節症は世界中で約5億人が、国内では約3000万人以上が罹患している。特に高齢者の患者が多く、その数は今後も増加傾向とされている。日本の介護保険制度において、要支援となる最大の原因であり、運動器障害による社会的・経済的負担は甚大である。中でも変形性股関節症は手術件数が年々増加しており、THAは高齢者を中心に広く行われている。
THA後の早期POPFFは、再手術の最も多い原因であり、患者のQOLや生命予後に深刻な影響を与えることが知られている。特に高齢者や骨粗鬆症患者などで発生リスクが高く、近年、その発生率は増加傾向にある。これまで、POPFFのリスク因子として年齢、性別、骨形態、骨粗鬆症などが挙げられてきたが、「ステムの設計がPOPFFに及ぼす具体的な影響」や、「より安全なインプラント選択の指針」については十分なエビデンスがなかった。
今回の研究は、こうした背景から「異なる設計のステムが早期POPFF発生率に及ぼす影響」を大規模に検証し、より適切なインプラント選択と骨折予防戦略の確立を目指して実施された。
カラー付きHAステム、テーパーウェッジ型と比較し早期POPFF発生率が低減
今回の研究では、THA後早期のPOPFFの発生頻度について、世界的にも日本国内でも最も広く使用されている、テーパーウェッジ型ステムとカラー付きHAステムの2種類の大腿骨コンポーネントを比較した。対象は単一術者・単一施設で施行された4,511例で、年齢・性別・診断名などを統計的にマッチさせた各1,804例についてPOPFF発生率を比較した。
早期POPFFは「術中や術直後のレントゲンでは確認できなかったが、術後90日以内に発生した骨折」と定義した。その結果、カラー付きHAステム群では、POPFF発生率が0.11%と、テーパーウェッジ型ステム群(0.72%)よりも有意に低いことが明らかとなった。
研究チームは、骨折が減った理由として、「カラー」が骨に早く安定性を与えること、ステムが荷重をうまく分散させ、骨にかかる力を和らげること、二重テーパー構造により、骨とのフィット感が高いことを挙げた。
一方、術中骨折発生率はカラー付きHAステム群(3.49%)の方がテーパーウェッジ型ステム(2.00%)よりやや高いことが明らかとなった。
ステム形状の工夫が患者予後改善に貢献、インプラント選択の新たな指針へ
今回の研究により、カラー付きHAステムの使用は、THA後早期のPOPFF発生率がテーパーウェッジ型ステムよりも有意に低いことが明らかとなった。これにより、ステム形状や固定様式の工夫が、患者予後改善につながるなど、臨床現場におけるインプラント選択・術式工夫にも応用が期待される。
「今後は、高リスク患者への適応、術中骨折予防策の強化、さらに今回設計したステムの長期成績や他術式との比較検討を進めることで、より安全で有効な人工股関節手術の確立につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・千葉大学 プレスリリース


