GLP-1受容体作動薬の体重への効果の違いに「食べ方のクセ」が影響?
岐阜大学は9月18日、近年2型糖尿病や肥満症の治療薬として注目されている「GLP-1受容体作動薬」について、その血糖値や体重に対する効果に個人差がある点に着目し、GLP-1受容体作動薬治療を開始する2型糖尿病をもつ人を対象とした前向き観察研究を実施し、その結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝内科学の小出祐也大学院生、加藤丈博准教授、恒川新教授、京都大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌・栄養内科の矢部大介教授および岐阜大学医学部附属病院、松波総合病院、岐阜市民病院、岐阜県総合医療センターの4つの医療機関のメンバーで構成されるG-DIET研究チームによるもの。研究成果は、「Frontiers in Clinical Diabetes and Healthcare」オンライン版に掲載されている。

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GLP-1受容体作動薬は、血糖値を下げるインスリンの分泌を助けるだけでなく食欲を抑える働きがあるため、肥満を伴う2型糖尿病や肥満症の治療薬として世界中で注目されている。しかし、どれくらい血糖値や体重が改善するかは個人差があり、その理由の一部はまだ明らかにされていない。
血糖値への効果の違いには、インスリンを分泌する膵β細胞がどの程度体の中に残っているかが関係していることがわかっている。一方、体重への効果の違いには、「食べ方のクセ(=食行動)」が影響している可能性があると考えられてきたが、これまで十分な研究は行われていなかった。
GLP-1受容体作動薬使用の2型糖尿病患者で、食べ方のクセを3タイプに分類して評価
そこで研究グループは、岐阜県内の4つの病院(岐阜大学医学部附属病院、松波総合病院、岐阜市民病院、岐阜県総合医療センター)で、GLP-1受容体作動薬を使い始める2型糖尿病をもつ人を対象に、「食べ方のクセ」とGLP-1受容体作動薬の効果(血糖値の状態を示すHbA1c(ヘモグロビンA1c)や体重の変化)との関係を調べた。食べ方のクセについては「日本語版オランダ摂食行動質問票(DEBQ-J)」という質問紙を使用し、「外発的摂食行動(食べ物の見た目や匂いなど、外からの刺激につられて食べてしまう傾向)」「情動的摂食行動(怒りや不安など、感情の変化で食べてしまう傾向)」「抑制的摂食行動(ダイエットや健康管理のために自分で食事を控えようとする傾向)」という3つのタイプに分類。質問票で得られるスコアが高いほど、その行動が強く出るタイプとして評価した。
外発的摂食行動傾向の強い人が最も効果大、「情動的摂食行動」傾向の人は効果小
GLP-1受容体作動薬による治療を1年間続けた結果、HbA1cや体重、体脂肪率が明らかに改善した。特に、「外発的摂食行動」は治療を始めて3か月後から明らかに減り、その効果は1年後まで続いていた。一方、「情動的摂食行動(感情の変化による食事)」や「抑制的摂食行動(意識的に食事を制限する行動)」は、治療初期には変化が見られたものの、1年後には元の状態に戻ってしまう傾向が見られた。
さらに、治療を始める前から「外発的摂食行動」の傾向が強かった人ほど、治療後により多くの体重が減っていたことがわかった。また、そのような人たちは血糖値の改善も大きい傾向にあった。しかし、感情の変化が主な原因で過食してしまう「情動的摂食行動」の傾向が強かった人では、減量効果や血糖改善効果は十分に期待しにくい可能性が明らかになった。
GLP-1受容体作動薬を使い始める前の食べ方のクセ把握が、個別化治療につながる可能性
今回の研究は、GLP-1受容体作動薬を使い始める2型糖尿病をもつ人を対象にした「観察研究」だ。これは治療の前後で起こる変化を記録して関係性を調べるもので、この原因でこの結果が起きたという因果関係までははっきり示すことができない。そのため研究グループは今後、より多くの人のデータを集めて詳しく分析したり、治療法を比較するための研究(ランダム化比較試験)を行ったりして、「食べ方のクセ」とGLP-1受容体作動薬の効果の関係をさらに明らかにしていく予定だとしている。
また最近では、GLP-1受容体作動薬に加え「GIP/GLP-1受容体作動薬」という新しい薬が登場し、肥満を伴う2型糖尿病や肥満症の治療薬として注目を集めている。こうした新しい薬についても「どんなタイプの人に効果が出やすいのか」を調べていくことで、一人ひとりに合った薬を選ぶ個別化治療の実現が期待されている。「このことから、GLP-1薬の治療を始める前に簡単な質問紙を使って、どのような食べ方のクセがあるかを把握することで、薬の効果をある程度予測できる可能性が示された。今後は、こうした情報を生かすことで、一人ひとりに合ったより効果的な治療の選択につながると期待される」と、研究グループは述べている。
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