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新たな歩行分析法を開発、マーカーレス・簡便・高精度-東京理科大ほか

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2022年12月12日 AM10:27

姿勢推定アルゴリズムOpenPose+足に装着した小型の慣性計測ユニットで

東京理科大学は12月9日、1台のRGBカメラの映像から人体の関節を推定することができる姿勢推定アルゴリズムによる姿勢推定と、足に装着した慣性計測ユニットから取得した情報を融合した新たな歩行分析法の開発に成功したと発表した。この研究は、同大理工学部機械工学科の山本征孝助教、石毛雄斗氏(2022年度修士課程2年)、竹村裕教授、県立広島大学保健福祉学部理学療法学科の島谷康司教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

人間の歩行には全身の筋肉や関節が関与するため、解析する際には各部の動きを細かく把握する必要がある。歩行分析では、撮影した映像を利用して歩く速度や歩幅などの各パラメータを取得することができるので、リハビリテーションをはじめとしたさまざまな臨床現場で活用されている。現在、臨床歩行解析の代表的な測定ツールとして、反射マーカーを用いた3次元モーションキャプチャ(3DMC)が使用されている。3DMCは歩行データを正確に測定することができるが、多数のマーカーが必要となるなど手間もかかる、経済的コストが高い、測定には広いスペースと技術的なスキルも必要になるなどの問題がある。慣性計測装置(IMU)を用いたモーションキャプチャシステムも利用されているが、このシステムでも、多くのIMUセンサーを人体の各関節に取り付ける必要があることから3DMCと同じ問題を抱えており、これらの代替手法が求められている。

そこで現在、人体姿勢推定アルゴリズムを用いたカメラベースのマーカーレスモーションキャプチャシステムが注目されている。しかし、こうしたマーカーレスシステムの場合、サンプリングレートや姿勢推定精度等の問題から、速い関節運動の測定が難しいという問題がある。特に、足関節角度の測定誤差が大きいなどの課題がある。

こうした問題を踏まえ、研究グループは、映像から人体の関節点を推定する姿勢推定アルゴリズムOpenPose(OP)による姿勢推定と足に装着した小型の慣性計測ユニットを組み合わせた新たな歩行分析法を立案し、高精度かつ簡単に測定可能な手法の開発および確立を目的とし、研究を行ってきた。今回の研究では、健康な成人男性16人が「1:通常速度で足のつま先を進行方向に向けて歩く」「2:通常速度で足のつま先を進行方向に対して外側に向けて歩く」「3:低速で足のつま先を進行方向に向けて歩く」「4:低速で足のつま先を進行方向に対して外側に向けて歩く」の4つの異なる条件でまっすぐ歩く様子を3DMCやRGBカメラで撮影。撮影した映像から、歩行速度や歩幅、歩行周期などの歩行全体に関するパラメータに加え、各関節の角度などの各部の状態を定量化し、その妥当性を評価した。

従来のマーカレスタイプ動作解析装置では誤差の大きかった足関節角度も、精度よく計測

その結果、本手法では多くのパラメータにおいて従来法と同等もしくはそれ以上の高い精度での歩行分析が可能であることが実証された。また、足関節角度については、いずれの条件においても、従来法よりも誤差を抑制できることを見出した。一方で、条件2や4などの足のつま先を進行方向に対して外側に向けて歩く場合や過度な回転動作が加わる場合は、測定誤差が大きくなることもわかった。

今回開発した方法では、デジタルカメラなどにも使用されているRGBカメラ映像からの姿勢推定と足に装着した小型の慣性計測ユニットから取得した情報のみを解析に利用するため、専門的な知識や大規模な装置が必要なく、誰でも簡単に歩行分析を行うことが可能だ。また、従来のマーカレスタイプの動作解析装置では誤差の大きかった足関節角度に関して、今回の手法では精度よく計測できることが実証されたとしている。これにより、足関節も含めた歩行中の関節角度や歩幅などの重要な評価指標が簡便かつ精度よく計測することが可能となるという。

今後、歩行動作に不自由を感じている人や歩行困難な人も対象に計測を

今回の研究では、健康な成人男性を対象としているが、今後は手法の改善に努めることや、歩行動作に不自由を感じている人や歩行困難な人も対象とし計測も行っていくとのことで、今後の進展が大いに期待される。また、同研究の成果について、研究を主導した山本助教は「本研究は医療・福祉現場での歩行分析ツールとして使用するだけでなく、ヘルスケアとしての歩行機能低下予測、ジムやスポーツ施設でのトレーニング評価、VRシステムで人の動きをアバターに精度よく投影できることなど、あらゆる分野での応用が見込める可能性がある」と述べている。

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